拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています
「身内に対してこんなふうに言うのはどうかとも思うのですが、式典の場でもお姉様はそれはそれは見事な演奏を披露したそうです。妹の私まで誇らしい気持ちがします」
「……代わりに女流ヴァイオリニストのレミール・ルスランは涙をのんだだろうがな」
 ぽつりとこぼされた台詞はくぐもって聞き取りにくく、首を傾げる。
「え?」
「いや、なんでもない。これはきちんと陛下を御しきれなかった俺の責任でもある。時にティーナ──」
 ファルザード様の言葉はよく分からなかった。ただ、彼はこの件をこれ以上語る気はないようだった。話題が次に移ったことで、この時覚えた小さな違和感もやがて忘れてしまった。
 その後も、ファルザード様とはいろんな話をした。孤児院でのこと、家族のことやラーラのこと。中でも、彼はお姉様のことを特に熱心に聞きたがった。
 私は聞かれるがまま、いかにお姉様が優れた素晴らしい女性であるかを語る。
 ……もしかすると、彼も社交界の華と謳われるお姉様に心惹かれるひとりなのだろうか。
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