Stayhere! 上司は××××で御曹司
うまくなめらかに言えなかった。
ボーカルの人は、かがんでいた態勢を戻し、CDを手にすると、ななみの前に立った。
ななみは、慌てて財布から、千円札を取り出した。CDと千円札を交換する。
どんなバンド名なのか知りたくて、すぐにCDに目を落とす。シャープな字体で「masked king」と、あった。
「マスクドキング…」
ななみは、おそるおそる視線をあげて、目の前の人を見た。背が高いから見上げる形になる。
「どうも、ありがとう」
かすれた、声でボーカルは言った。アイマスクの中の目が笑みを作り、口元の口角があがった。
それだけなのに、ななみは、心臓を射抜かれたように固まった。
この人の推しになろう…! ななみはそう決心した。
それが、三年前の夏のこと。それ以来、ななみは地元に帰っても、ひたすら「キング」の情報をネットで漁った。SNSもやっていないらしく、手がかりがつかめなかった。買って帰ったCDは、擦り切れるほど聴いた。CDジャケットにはバンド名の他に「Vo sou G Joe」が記されただけの素っ気ないもので、ヴォーカルがソウ、というと知った。
東京に行ったら、また路上ライブで出会えるかもしれない、とバイトに精を出して上京を目論む日々を送っていた。
そんな中、一般人が、「キング」が路上で歌っているところを撮影し、ネットにアップした。
ななみもすぐにアクセスして、その動画を見た。ななみの知らない曲で、ロックバラードだった。ソウのしゃがれた声と甘い歌詞が聴くものをしびれさせた。ななみは、ソウとの再会がモニター越しでも嬉しかった。
毎日のように再生して、聴いていたら、事件が起きた。
再生回数が日に日に増していく。気がつけば10万再生を突破した。インディーズチャートにたちまちトップ10入りした。
「バズった…!!」
自分がいいと思ったものが他のたくさんの人がいいと思っている。その嬉しさもあったけれど、買って帰ったCDの完成度が高かったので、「もっと売れるはず」という期待もあった。何より嬉しかったのは、それ以降、「キング」はライブハウスでライブをするようになった。HPもでき、ライブ告知もされるようになった。
回数は年に三回程度だが、まったくつながれなかった頃と比べれば雲泥の差だ。ななみは、学業の傍ら、せっせとバイトをして、ライブを見に上京した。
そんな矢先、ななみは就職活動の末、ロックアウト社のバイト要員となり、東京に住むことになった。もう飛行機代を稼がなくていいとはいうものの、「キング」のCDを買い、他にも好きなバンドはいっぱいいるので、もちろんライブに行く。そうなると金欠は必至。ななみは「rock:of」の雑用でコマネズミのように働いた後、体にムチ打ってバーのバイトに来ているのだった。
「今でも、思い出す、あの最高の出会い…」
バー「reef」のカウンターの内側で、うっとりとななみは思い出を頭の中で巡らした。
「あー、もう百回聞いたかな、それ…」
横でナプキンをたたみながら、かよが言った。
「それにしたってさ、よく続くよね。メールとか出しても、全然返事ないんでしょ」
「そうなの…思いの丈を、綴ってはいるんだけどねえ…」
ななみは、キングのHPができあがって、メールを送れるようになってから、かなりの頻度でキングにメールを書き、送っている。思いの丈、と言っても実は「恰好いい」とか「好きです」といったいわゆるファンメールではなく、「この曲のここがよかった」とか「キングの曲を聴くとこんなミュージシャンを思い出します」のような、曲の分析をしたものが多い。それを受け取ってキングのソウがどう思うかもわからないけれど、自信につながるような事が書けるといいな、と思いながらいつも書いている。
想像した通り、返事は来なかった。キングのライブでは、ⅯCがほとんどない。楽曲のすごさだけで、最後まで、観客を飽きさせない。そんなスタイルから、ファンとの馴れ合い的な、仲良しごっこのようなものは、したくないのだろう、と推測している。
ファンとしては「ありがとう」のひとことがあったっていいのに、と思った頃もあったけれど、今では、キングのその孤高な感じが、またいい、と思えるのだ。
それでも返事が来ないとわかっていても、曲を聴くたびに、湧き上がる感動を、キングに救われる夜の気持ちを、書かずにはいられない。
返事はなくても、読んでくれているのではないか。
そう思ってしまうこともある。
それはわずかなパーセンテージだけれど、その気持ちが、ななみにメールを書かせているのも否定できない。
かよは、またライブに行くんでしょ、とななみに言った。
「そうなの、そろそろ新曲が聴けそうな時期なんだよね。楽しみ…」
「でもさ、推しがいない私にはよくわかんないけど、毎回、ライブに行って、飽きたり、今回はもういいかな、ってならないわけ?」
「かよちゃん。そうならないのが推し、なんだよ。それにね、キングって毎回、ライブのたびに曲のアレンジが変わってたりして、いつも新しい発見があるのよ。べたべたしたファンサービスはしないけど、「すごい楽曲を提供する」ってことに、かなり重心を置いてるんだと思う。音楽そのものにかける熱量が、他のバンドと違う気がする…ひいき目かもしれないけどね」
「まあ、それだけ想われたらキングの人も嬉しいんじゃないの。ライブの日、早めに言ってよね。シフト都合つけるから」
「うん。ごめん。でも、不思議なの、キングのライブって仕事が忙しくない時にあるんだよね。
校了明けとか。おかげで、ライブ行けてるから助かる…」
「まあねー。あんた、バイトが決まった時、仕事が忙しい期間とライブがぶつかったらどうしよう、ってかなり心配してたもんね」
「そうなんだ。下っ端、バイト見習いの身で、ライブがあるから帰りますって言えないでしょ?どういうわけかわからないけど、ありがたいの一言」
「あー、その分、うちのシフトにしわ寄せがきてるけどねえ」
カウンターの端で、ワインを飲んでいたオーナーが言った。
はっ、とななみは我に返った。
「すみません、オーナー。このバイトのおかげで何とかやっていけてます。『キング』のライブの日に、バイトに入れない分、他で穴埋めします」
ななみは、頭を下げて言った。ライブを理由に休ませてもらえるなんて、本当に足を向けて寝られない、とななみは真剣に思っている。
「まー、ななみちゃんの笑顔が好きっていうお客さんも結構いるからね。仕事は機嫌よく頼むよ」
「かしこまりました」
ななみは自覚がないのだが、カウンター越しにお客様とひとつふたつ言葉を交わして、ちょっと笑ったりしただけなのに、「ななみちゃんに会いにきたよ」などと言われるのだ。ななみ的には、「??」という感じなのだが、そういう客は高い酒を注文してくれたりもするので「いいこと」にしておこう、と思っている。
かよは、オードブルの仕込みをしに、キッチンに入って行った。
「そういえば」と、ふと思い出したようにオーナーが言った。
「常連の木下さん。今日、後輩連れてくるって言ってたなあ。音楽好きらしいから、ななみちゃんと気が合うんじゃない」
「楽しみです」
にっこりと微笑んでななみは言った。
しかし、「音楽好き」にもいろんなタイプがいることを、ななみはよく知っている。オーナーは五十代だけど、ロックは卒業して、ジャズが好きだ。
音楽の幅は広い。レゲエ、スカ、パンク、グラムロック、演歌にJポップ、昭和歌謡にGS…人の好みなんて無数にあって、自分の好みとまじりあうなんて滅多にないことなのだ。
でも、知ってる曲とかがちらっと話に出てくるだけでも嬉しいんだけど…ななみはグラスを磨きながら希望的観測をしてしまう。
「高山、いるかー」
お店のドアが開き、男性二人組が入ってきた。白髪交じりの男性、常連の木下がオーナーの名を呼んでいる。
「お待ちしていましたよ」
オーナーが席から立ち上がり、木下の連れに「はじめまして」と挨拶する。
「はじめまして」
凛、とした声がフロアに響いた。
木下の飲む酒の用意をしようと、屈んでいたななみは、びくっと反応した。
声が、似ている。
「キング」のソウの声に…!!
まさか、こんなところで遭遇とか…でも、同じ東京、全くないなんて言い切れない…
ななみは、おそるおそる体勢を立て直して、カウンターの向こうを見た。
「あれ。北条。何やってる」
「へ…編集長?!」
木下が連れてきたのは、ななみのよく知っている編集長、葉山宗吾だった。
「なに、ななみちゃん、知り合いなの?」
オーナーが不思議そうに見ている。
ななみは、がっくりした気持ちを隠しきれずに言った。
「私の、上司です…」
「はあ、なんだ北条、上司にそんなつまんなそーな顔すんなや。木下先輩にさっさと酒をお出ししろ」
「はい。もちろんです」
木下と、編集長に何の酒がいいか聞く。バーテンダーを兼任するオーナーが,カウンターの内側に移動してカクテルを作り始める。ななみはカクテルにつけるフルーツを切りながら、自分を罵倒していた。
なんでまたソウの声と編集長の声を間違ってしまったのか。ファンとしては許されないことだ。ちょうど「キング」の話をしていた矢先だったから、きっと耳が誤作動したのだ、と思うことにした。
「へえー、じゃ、ななみちゃんのお勤め先の雑誌の編集長さん」
カクテルを差し出しながら、オーナーが言った。
「そうなんです。北条、なんかやらかしてませんか」
編集長は、微笑みながらそんなことを言う。やらかしって何。
「いやいや、シフトは少ないけど、丁寧に働いてくれてますよ。もっと入ってほしいくらいです」
「へえ…」
じっ、と編集長がななみの顔を見る。ななみは、はっとした。
「編集長…もしかして…副業とか、ダメだったんですか。私、規則違反じゃ」
「いや、それはない」
即答されて、ほっとする。
ボーカルの人は、かがんでいた態勢を戻し、CDを手にすると、ななみの前に立った。
ななみは、慌てて財布から、千円札を取り出した。CDと千円札を交換する。
どんなバンド名なのか知りたくて、すぐにCDに目を落とす。シャープな字体で「masked king」と、あった。
「マスクドキング…」
ななみは、おそるおそる視線をあげて、目の前の人を見た。背が高いから見上げる形になる。
「どうも、ありがとう」
かすれた、声でボーカルは言った。アイマスクの中の目が笑みを作り、口元の口角があがった。
それだけなのに、ななみは、心臓を射抜かれたように固まった。
この人の推しになろう…! ななみはそう決心した。
それが、三年前の夏のこと。それ以来、ななみは地元に帰っても、ひたすら「キング」の情報をネットで漁った。SNSもやっていないらしく、手がかりがつかめなかった。買って帰ったCDは、擦り切れるほど聴いた。CDジャケットにはバンド名の他に「Vo sou G Joe」が記されただけの素っ気ないもので、ヴォーカルがソウ、というと知った。
東京に行ったら、また路上ライブで出会えるかもしれない、とバイトに精を出して上京を目論む日々を送っていた。
そんな中、一般人が、「キング」が路上で歌っているところを撮影し、ネットにアップした。
ななみもすぐにアクセスして、その動画を見た。ななみの知らない曲で、ロックバラードだった。ソウのしゃがれた声と甘い歌詞が聴くものをしびれさせた。ななみは、ソウとの再会がモニター越しでも嬉しかった。
毎日のように再生して、聴いていたら、事件が起きた。
再生回数が日に日に増していく。気がつけば10万再生を突破した。インディーズチャートにたちまちトップ10入りした。
「バズった…!!」
自分がいいと思ったものが他のたくさんの人がいいと思っている。その嬉しさもあったけれど、買って帰ったCDの完成度が高かったので、「もっと売れるはず」という期待もあった。何より嬉しかったのは、それ以降、「キング」はライブハウスでライブをするようになった。HPもでき、ライブ告知もされるようになった。
回数は年に三回程度だが、まったくつながれなかった頃と比べれば雲泥の差だ。ななみは、学業の傍ら、せっせとバイトをして、ライブを見に上京した。
そんな矢先、ななみは就職活動の末、ロックアウト社のバイト要員となり、東京に住むことになった。もう飛行機代を稼がなくていいとはいうものの、「キング」のCDを買い、他にも好きなバンドはいっぱいいるので、もちろんライブに行く。そうなると金欠は必至。ななみは「rock:of」の雑用でコマネズミのように働いた後、体にムチ打ってバーのバイトに来ているのだった。
「今でも、思い出す、あの最高の出会い…」
バー「reef」のカウンターの内側で、うっとりとななみは思い出を頭の中で巡らした。
「あー、もう百回聞いたかな、それ…」
横でナプキンをたたみながら、かよが言った。
「それにしたってさ、よく続くよね。メールとか出しても、全然返事ないんでしょ」
「そうなの…思いの丈を、綴ってはいるんだけどねえ…」
ななみは、キングのHPができあがって、メールを送れるようになってから、かなりの頻度でキングにメールを書き、送っている。思いの丈、と言っても実は「恰好いい」とか「好きです」といったいわゆるファンメールではなく、「この曲のここがよかった」とか「キングの曲を聴くとこんなミュージシャンを思い出します」のような、曲の分析をしたものが多い。それを受け取ってキングのソウがどう思うかもわからないけれど、自信につながるような事が書けるといいな、と思いながらいつも書いている。
想像した通り、返事は来なかった。キングのライブでは、ⅯCがほとんどない。楽曲のすごさだけで、最後まで、観客を飽きさせない。そんなスタイルから、ファンとの馴れ合い的な、仲良しごっこのようなものは、したくないのだろう、と推測している。
ファンとしては「ありがとう」のひとことがあったっていいのに、と思った頃もあったけれど、今では、キングのその孤高な感じが、またいい、と思えるのだ。
それでも返事が来ないとわかっていても、曲を聴くたびに、湧き上がる感動を、キングに救われる夜の気持ちを、書かずにはいられない。
返事はなくても、読んでくれているのではないか。
そう思ってしまうこともある。
それはわずかなパーセンテージだけれど、その気持ちが、ななみにメールを書かせているのも否定できない。
かよは、またライブに行くんでしょ、とななみに言った。
「そうなの、そろそろ新曲が聴けそうな時期なんだよね。楽しみ…」
「でもさ、推しがいない私にはよくわかんないけど、毎回、ライブに行って、飽きたり、今回はもういいかな、ってならないわけ?」
「かよちゃん。そうならないのが推し、なんだよ。それにね、キングって毎回、ライブのたびに曲のアレンジが変わってたりして、いつも新しい発見があるのよ。べたべたしたファンサービスはしないけど、「すごい楽曲を提供する」ってことに、かなり重心を置いてるんだと思う。音楽そのものにかける熱量が、他のバンドと違う気がする…ひいき目かもしれないけどね」
「まあ、それだけ想われたらキングの人も嬉しいんじゃないの。ライブの日、早めに言ってよね。シフト都合つけるから」
「うん。ごめん。でも、不思議なの、キングのライブって仕事が忙しくない時にあるんだよね。
校了明けとか。おかげで、ライブ行けてるから助かる…」
「まあねー。あんた、バイトが決まった時、仕事が忙しい期間とライブがぶつかったらどうしよう、ってかなり心配してたもんね」
「そうなんだ。下っ端、バイト見習いの身で、ライブがあるから帰りますって言えないでしょ?どういうわけかわからないけど、ありがたいの一言」
「あー、その分、うちのシフトにしわ寄せがきてるけどねえ」
カウンターの端で、ワインを飲んでいたオーナーが言った。
はっ、とななみは我に返った。
「すみません、オーナー。このバイトのおかげで何とかやっていけてます。『キング』のライブの日に、バイトに入れない分、他で穴埋めします」
ななみは、頭を下げて言った。ライブを理由に休ませてもらえるなんて、本当に足を向けて寝られない、とななみは真剣に思っている。
「まー、ななみちゃんの笑顔が好きっていうお客さんも結構いるからね。仕事は機嫌よく頼むよ」
「かしこまりました」
ななみは自覚がないのだが、カウンター越しにお客様とひとつふたつ言葉を交わして、ちょっと笑ったりしただけなのに、「ななみちゃんに会いにきたよ」などと言われるのだ。ななみ的には、「??」という感じなのだが、そういう客は高い酒を注文してくれたりもするので「いいこと」にしておこう、と思っている。
かよは、オードブルの仕込みをしに、キッチンに入って行った。
「そういえば」と、ふと思い出したようにオーナーが言った。
「常連の木下さん。今日、後輩連れてくるって言ってたなあ。音楽好きらしいから、ななみちゃんと気が合うんじゃない」
「楽しみです」
にっこりと微笑んでななみは言った。
しかし、「音楽好き」にもいろんなタイプがいることを、ななみはよく知っている。オーナーは五十代だけど、ロックは卒業して、ジャズが好きだ。
音楽の幅は広い。レゲエ、スカ、パンク、グラムロック、演歌にJポップ、昭和歌謡にGS…人の好みなんて無数にあって、自分の好みとまじりあうなんて滅多にないことなのだ。
でも、知ってる曲とかがちらっと話に出てくるだけでも嬉しいんだけど…ななみはグラスを磨きながら希望的観測をしてしまう。
「高山、いるかー」
お店のドアが開き、男性二人組が入ってきた。白髪交じりの男性、常連の木下がオーナーの名を呼んでいる。
「お待ちしていましたよ」
オーナーが席から立ち上がり、木下の連れに「はじめまして」と挨拶する。
「はじめまして」
凛、とした声がフロアに響いた。
木下の飲む酒の用意をしようと、屈んでいたななみは、びくっと反応した。
声が、似ている。
「キング」のソウの声に…!!
まさか、こんなところで遭遇とか…でも、同じ東京、全くないなんて言い切れない…
ななみは、おそるおそる体勢を立て直して、カウンターの向こうを見た。
「あれ。北条。何やってる」
「へ…編集長?!」
木下が連れてきたのは、ななみのよく知っている編集長、葉山宗吾だった。
「なに、ななみちゃん、知り合いなの?」
オーナーが不思議そうに見ている。
ななみは、がっくりした気持ちを隠しきれずに言った。
「私の、上司です…」
「はあ、なんだ北条、上司にそんなつまんなそーな顔すんなや。木下先輩にさっさと酒をお出ししろ」
「はい。もちろんです」
木下と、編集長に何の酒がいいか聞く。バーテンダーを兼任するオーナーが,カウンターの内側に移動してカクテルを作り始める。ななみはカクテルにつけるフルーツを切りながら、自分を罵倒していた。
なんでまたソウの声と編集長の声を間違ってしまったのか。ファンとしては許されないことだ。ちょうど「キング」の話をしていた矢先だったから、きっと耳が誤作動したのだ、と思うことにした。
「へえー、じゃ、ななみちゃんのお勤め先の雑誌の編集長さん」
カクテルを差し出しながら、オーナーが言った。
「そうなんです。北条、なんかやらかしてませんか」
編集長は、微笑みながらそんなことを言う。やらかしって何。
「いやいや、シフトは少ないけど、丁寧に働いてくれてますよ。もっと入ってほしいくらいです」
「へえ…」
じっ、と編集長がななみの顔を見る。ななみは、はっとした。
「編集長…もしかして…副業とか、ダメだったんですか。私、規則違反じゃ」
「いや、それはない」
即答されて、ほっとする。