Hush night

わたしを拾って、彼に利益などなかったはずだ。

それは自分でわかっている。


それなのに、麗日はわたしに手を差し伸べてくれたのだ。


ただ麗日の言葉を待っていると、数秒沈黙を続けた彼は、迷いのない口振りで言った。



「だって、うるを救い出したかったから」


「……救い出す、って、」



「俺があの人……うるとスイの父親の獅童さんからトップを継いだのは、うるをどうしても……お前から助けたかったんだよ」


「……は、」



「12になった頃の、あの日。初めてうるとスイを見かけた日────」





いつだって隠していた本音を語り出した麗日に、耳を傾ける。


遡る昔の記憶は、……残酷で美しい運命のようだった。



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