Hush night

愛せば苦脳





「うる、欲しい服どれ?」

「……」


「わかんない? 一旦全部買うか?」

「だ、だめっ……」



金銭感覚のおかしい麗日を慌てて引き留め、頭を悩ませる。

麗日に連れて来てもらったのは、彼の顔見知りが経営しているらしい高級ブランド店。


店に入るなり煌びやかな雰囲気に気圧され、さらに並んでいる衣服にふと目をやると、その金額の高さに息を呑んでしまったのだ。


ゼロの数が異次元……、と呆気にとられていたのだけれど。

そのわたしの様子を、どれにしようかと悩んでいると勘違いした彼は、先ほどのような発言をしたということになる。


全部買うだなんてあり得ないことを、平然と言ってくる辺り、やっぱり麗日は計り知れない。



「こんな高級な服……わたしには、もったいない、です……」


初めてこんなに話したんじゃないかと思いつつ、でもそれくらい遠慮の気持ちが大きかった。


麗日にここまでしてもらう恩がない。

果たしてその対価を払えるかと思えば、絶対に返せない。


俯いて呟いたわたしに、麗日は優しい瞳でわたしの顔を覗き込んできた。



「じゃ、俺が選んでいい? それなら勝手に俺が買ったことになるだろ」

「……、でも、」


「うるはもっと自信持ちな。“わたしなんか”は禁句だから」


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