宿り木カフェ
Case2 親友が出来婚しそうな36歳
私には中学の頃から何かにつけ一緒だった、いわゆる親友がいた。
彼女は自由奔放、私は真ACアダプター面目。
そんなある意味凹凸な組み合わせが、長年上手く行っていた秘訣なのかも知れない。
お互い同じ高校に進学し、大学は別々だった。
しかし大学に入っても、だいだい2ヶ月に一度は地元で会っていた。
お互い実家暮らし、家がまだ近いからマメに会えていたのだと思う。
彼女は誰とでも仲良くなる性格なのだが、本命の男性には何故か奥手だった。
好きな人が出来ると真っ先に私に報告し、相談してきた。
私の方がむしろ交際経験なんて無いに等しいのに、少しでも力になりたくて必死に相談に乗った。
成功した、失敗した、告白された、全て彼女から報告が来た。
離れていても、彼女の行動が手に取るようだった。
私はこれが繋がっていることだと嬉しかった。
就職をした。
私は公務員、彼女はとある企業の営業だった。
私にだって彼女の他にも友人はいる。
そんな友人達と折々にグループで集まることもあった。
友人達と会えば、話すのはまず仕事のこと。
話していて少し時間が経てば会社の愚痴、もう少し経つと、転職の話と同時に、結婚の話が聞こえ始めた。
そうなると話す内容が変わってくるわけで、今まで同じメンツで集まっていたはずなのに、グループの中にグループが出来だした。
いわゆる、既婚か、未婚かのグループ。
もちろん結婚してもみんな最初は仕事をしていたから、なんだかんだ仕事の話が共通として存在した。
そして次の段階に行く。
未婚か、結婚しているけれど仕事をしているか、結婚して仕事を辞めたか。
いつも集まっていた飲み会もどんどん参加者が減り、何故か内部で変な差別意識が増えてきた。
結婚していて仕事を続けているのは、経済的な問題か、仕事のレベルの話なのか。
そしてここまで来ると、もう皆で集まることはほぼ無くなっていた。
未婚か、結婚しているけれど仕事をしているか、結婚して仕事をしていないか、そして子供がいるかどうか。
小さな子供がいる友人は、夜の飲み会に参加するのは不可能だった。
この状況になると、今まで何とか繋がっていた関係はカオスになっていく。
誰かがふと、また集まりたい、みんなどうしているだろうと、SNSのグループで言い出す。
そして、良いね、会いたいね、と盛り上がり出すのに、同時に、私は仕事が忙しい、夫の相手が大変、子供の世話が大変と各自のアピールが始まった。
ようは言うだけ言って、だれも幹事という面倒なことをしたがらない。
私だって独り身だけれど仕事は忙しい。
なのに、周囲からすれば、実家暮らしの未婚は、自由時間が満載の一番気楽な存在に見えるらしい。
実は母の体調が悪くて、私が家族のご飯を作っているなんて友人達は知らない。
家の家事もしているなんて知らない。
ようは私が家を出ると家族が困る状況だから出られないなんて事は知らない。
だってそんなこと、いちいち他人に報告して回る事でも無いからだ。
結局私は周囲の圧力を感じ、仕方なく幹事を担当した。
みんなが喜ぶのならとはじめたものの、これがとても面倒で大変だった。
仕事をしている人は夜が良いと言い、子供がいる人は昼が良いという。
平日昼なんて仕事している人間は無理なのに、平然と平日昼間を指定してきた子には驚いた。
では土日どっちかのお昼にしようとすると、酒が飲みたいからそういう店にしてというメンバーと、小さい子がいて早々家から出られないからせめてこういう時くらい出かけたいから、子供もOKな店にしてくれという。
正直、小さな子供の居る友人達がお店の選択肢を狭めてくる。
赤ちゃんがいるから泣いても大丈夫な場所、子供が歩いてもあまりケガしない場所にして、なんて言われる。
私達だってずっと育児で大変なのだからみんなと会いたい。
子供をおいて行けないなら、参加するなと言うの?と、思い切りダイレクトに幹事をしている私にだけ直接文句を言ってくる。
これを、仕事をしているメンバーに伝えると今度はそちら側の不満が爆発する。
何故私達が我慢しなければいけないのか、と。
友人には子供が欲しいのに出来ない子もいる。
子供は欲しいけれど、結婚しても経済面で諦めている子もいる。
そしてそもそも結婚していない私みたいなのもいるのだ。
もうそれは隣の芝は青いどころか、燃えてしまえな勢いだ。
結局一度だけ子供連れOKなレストランの個室で集まることにしたが、一番不満を訴えてきたのは、子供のいないメンバーだった。
その時はみんな笑顔だったけど、終わると同時に私の所には愚痴が多方面から送られてきた。
誰もやらないから仕方なく引き受けたのをみんなわかっているはずなのに、そんな幹事をした私が、なんでこう不満受付所としてその後も対応しないといけないのだろうか。
私はヘトヘトになって、二度とこのグループで幹事などするもんかと思った。