宿り木カフェ
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「ねぇ、林さん、この頃綺麗になったわよね?」
「え?」
「そうそう、私もそう思ってた!」
朝、更衣室で着替えていたら、そんな事を同僚達に言われた。
「なーにー?彼氏が出来たの?」
「そうだと思った!
なんか子供っぽさ抜けて色気が出てきたというか」
「なんですかそれ」
私は皆から興味津々に詰め寄られ、驚いてしまう。
驚きながら、頭の中が真っ白になりそうなのを悟られないように笑顔を浮かべる。
「で、彼氏いるの?」
「いません!いません!」
私が必至に否定すると、みんなじろりと私を見た。
「嘘だよね」
「嘘よねぇ」
「そんな」
私が否定しても皆は納得していないようだ。
ここで課長との関係が公になってしまったら、彼が今までしてきた努力を潰してしまう。
そんなことは絶対出来ない。
「その、ここだけの話にしてもらえますか?」
私は小さな声で本当に困惑した表情で言うと、みんな、面白そうに近づいてくる。
私は一応何かあった時のために仕込んでおいたものを、こっそりと取り出す。
「私の大好きな人です・・・・・・」
みんながその写真を見て、固まった。
「これ、今人気急上昇のイケメン俳優君でしょ?」
「今度の朝ドラに抜擢されたって言う」
そう言うと私を一斉に見る。
信じられない物を見る目。
だがここで信じて貰わなければならない。
「その・・・・・・彼のおっかけをしてることは内緒にして頂けると」
「嘘!おっかけしてんの?!」
「実は前回の出張、現地解散にしてもらってそのままロケ地に行ったんですけど、後で課長にばれまして」
「前回の出張でそんな事してたの?!」
「もちろん業務終了後ですよ?
まぁ打ち上げしようという課長のご厚意を断ってしまいましたが」
えへへ、と笑うと、みんなが顔を見合わせている。
「なんか信じられないけど聞いたことはあるなぁ」
「友達にもいるよ、もっと凄いけどそのせいかめっちゃ綺麗になった」
「林さんみたいな真面目な子の方が、こういうのにはまっちゃったりするものなんだね」
予想外にみんなが納得してくれて、私は小さくほっとした。
反面、最後の言葉にはドキリとさせられた。
私だって、そうなるとは思っていなかったのだから。
「って事があって」
彼と同じベットでまどろみながら、先日起きた話を報告した。
「まさか君がそんな仕込みをしていたなんて」
そう言って彼が笑いながら私の頭をゆっくり撫でる。
腕枕も最初は緊張したが、今は少しでも触れていられることが嬉しい。
「だって、私のせいで課長の出世や家庭に影響するなんて嫌」
「君のおかげで、俺はエネルギーをもらえているよ、ありがとう」
優しい声で温かい胸板に引きよせられる。
幸せだ。
彼とは一緒になれないけれど、それでも私は本当に幸せだった。
一番辛いのは、この幸せを誰にも話せないことだ。