宿り木カフェ
この関係も気がつけば一年も続いていた。
私はこの事を墓まで持って行くべきだと思いつつも、誰かに聞いて欲しかった。
そして、幼なじみのあの子なら、一番私を知っている彼女なら、困ったような顔で聞いてくれるかも知れない。
私は、彼女と会う約束をした日、意を決してその事を話した。
「それ、不倫よね?」
「う、うん、まぁ・・・・・・」
「あのさ、向こうの奥さんから賠償請求ってのされるんだよ?」
「それは」
「むこうは遙かにおっさんで、従順な若い子とヤレてあっちが得してるだけじゃない」
「そんな事無いよ!私は色々」
「凄く幻滅した。
そういう汚い子だと思わなかった」
彼女の表情は軽蔑、それだけだった。
私はその顔を見て、どうしていいかわからず言葉も出せない。
「もう、連絡してこないでね」
彼女はそういうと、1人お店を出て行った。
きっともう二度と彼女には会えない。
彼女なら、受け止めてくれると信じていたけれどそうではなかった。
わかっている。
こんなことはいけないことだってわかっている。
でも、幸せなの。
私は今はこれで良いの。
彼のおかげで私は沢山自信をつけられたの。
それを受け止めて貰えなかった事実にただ胸を締め付けられ、そして大切な幼なじみを一人失ったことに、私は一人、カフェで俯いた。
私はこの事を彼に話すなんて出来なかった。
しかし、唯一理解してくれると思った幼なじみに全てを否定され、切なさや悲しさや、憤りがうずまいてずっと苦しい日々が続いていた。
突然その時のことが思いだしてしまい、涙が溢れてくる。
誰かに聞いて欲しい。
説教はしないで。
不倫がいけないなんてことなんて、一番私がわかっている。
ただ聞いてくれる、安心して話せる人が欲しかった。
そんな相手はいないだろうかとネットで検索していて『宿り木カフェ』という不思議なサイトを見つけた。
女性客と男性スタッフがネット通話で話す、それもカフェで店員さんと話すような気楽さで、なんて書いてある。
まさに私が欲している事だと思い、私は規約をざっと読んですぐに登録を始めた。
スタッフ希望欄には、彼と同じ歳の30歳半ば、既婚者、仕事が出来る人、そして説教をしない人、という要望を入れた。
そして、自分がどういう状況なのか記入できる欄もあったので、既婚者と不倫関係にあることを書いた。
このことを話したい事が目的ではあるけれど、もしかして特定されたりしないかと心配もよぎった。
しかし個人情報は必要無かったし、秘密厳守との一文を信じて連絡を待った。
それだけ私はこれを一人だけで抱えていることが辛くてしかたなかったのだ。