宿り木カフェ
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「ポンポンポン!」
パソコンから音がして、私は我に返ると慌ててそちらに向かう。
この音は相手がログインして待機しているのを知らせる音だ。
今日は夜の9時から30分間の予定。
これが今、私の唯一の支えになっていた。
『宿り木カフェ』
-「このカフェで少し心を休めてみませんか?」-
というキャッチフレーズの書かれたサイトを見つけたのは、一ヶ月ほど前のことだった。
心が辛い、心を休めたい、愚痴を聞いて欲しい、そんな言葉をネットの検索欄で打ち込んでいたら、このサイトに行き着いた。
『宿り木カフェ』なんて名前がついているが、ようは話を聞いてもらう『客』と話を聞く『スタッフ』を繋ぐ変わったサイトだ。
それも、客は女性のみ、スタッフは男性のみという事で、一瞬怪しいサイトなのではと思ったけれど、色々注意書きを読んで気がつけばお試し通話をしてしまっていた。
本来の私なら怪しくて踏み出さなかったかも知れない。
でも、何かにすがりたい、聞いて欲しいと必至に思っていた。
それほどに私は疲れていたのだ。
そのカフェを使うにはまず会員登録が必要で、何を話したいか、どういう現状なのかという事を記入し、どのようなスタッフを希望するのか記入する。
サイトの注意書きには、スタッフは必ずしもご希望に添えるわけではありません、との注意書きがあったのだが、
『50代くらいの人、家族を事故か事件で無くしているけど穏やかな人』というリクエストをつけた。
そして今、私はネットの向こうにいるこの人と話すのを心待ちにしている。
私は時計を見て、昔から使っているお気に入りのマグカップに入れたコーヒーをパソコンの横に用意し、ヘッドセットをつけた。