宿り木カフェ
『言うねぇ、その彼氏』
彼との電話での事を報告したら、楽しそうにリュウさんは答えた。
「まずいことだなと思いつつ嬉しくて」
『それはそうだろうね、特別って事だから』
特別。
その言葉を口に出し、顔がだらしなくなってしまう。
会社の話をして、リュウさんのお相手はどんな女の子だろうかと聞きたくなった。
いや以前から気になっていたけれど。
「リュウさんの彼女さん達は会社の人ですか?」
『はは、まさか。
自分の雇ってる子達には絶対手は出さないよ。
面倒なことになるからね、それこそ君達のように』
「そ、そうですよね・・・・・・。
じゃぁ、その彼女さん達とはどうやって知り合ったんですか?」
『色々かなぁ。
こういう仕事してると色々な人と会うから』
「そうだ!前回聞けなかった相手の女性達の話を是非詳しく!」
『おや、覚えていたか、残念』
リュウさんの声は全く残念そうじゃない。
むしろずっと私を面白そうに観察している感じだ。
「やっぱりモデルとかそういう美人な方々ですか?」
『先に言っておくと、僕はイケメンとかでは無いからね?』
急に真面目な声で言われ、私は思わず吹き出した。
想像ではきっと格好よくスーツを着こなし、どんなときでも余裕在る表情で社長室にいそうな気がする。
『ということで僕の外見目当てでは来ない。
要は中身で勝負というとこかな』
「社長さんなら近づく女性は多そうですね」
『それは否定しない。
けどね、僕の彼女たちは、そういうのに興味のない子達ばかりなんだ』
「そうなんですか?」
『そう。
そういう肩書きに興味のない子を落とすのが僕の楽しみの一つ』
「なんか悪趣味ですね」
思わず呟いて、しまったと思った。
段々張っていた緊張が解けて、するする口に出てしまっている。
失礼なことをして嫌がられたのではと思ったのに、向こうからは軽い笑い声が聞こえた。
『強いて言えば、狩りをする男の本能だとでも思って欲しいかな』
「うわぁ」
『そういう君も狩られた獲物でしょうに』
「えっ?」
リュウさんの突然の言葉に驚く。
駆られた獲物、宿り木カフェに行き着いたことだろうか。
それとも彼とのことを勘違いしているのだろうか。
「それって不倫の事ですか?
いえ、あれは私が強引に迫って」
『例の初めての夜、彼は避妊具を持っていたんだよね?』
「え?はい、そう言えば」
『おかしいと思わなかった?
何故持っているのか理由を聞いたことは?』
「いえ、何も・・・・・・。
初めてでしたしそういうものなのかなって。
そもそも疑問に思ったことも無かったので、理由も聞いたことは無いです」
また向こうからは押し殺したような笑い声が続いていた。
私には何が何だかさっぱりわからない。
『そうか、彼も酷い男だな』
「リュウさん、さっきから意味がわからないです」
揶揄われたままで、私は流石にムキになったように言った。
ごめんね、と言うリュウさんの声は笑うのを我慢しているようだった。
『あのね?
彼はずっと前から、君を狩りのターゲットにしていたんだよ』
「・・・・・・え?」
『彼は転職組だっけ?
前の会社でも食べていたかもしれないね、慣れているところを見ると』
私は呆然としていた。
狩りのターゲットって何?
課長が前の会社でも私にしていたようなことをしていた?
『聞いていると僕に近い部分がある。
だから彼の事が、考えが割ととよくわかるんだよ。
彼は君のことが気に入って、君の方からけしかけるように罠を張ってじっと待っていたのさ』
「まさか・・・・・・」
『普通部下との出張で避妊具持参するかな?
あわよくば君としようと万全の体制で臨んでいたんだよ。
さて、彼女はこのパターンだとどうでるかなって、心底楽しみに過ごしていたと思うよ?』
「そ、それは私の仕事ぶりを認めていた訳じゃ無いって事ですか?
したいから、なんか落としやすそうな女だから、あのプレゼンに同行させたってことですか?!」
思わずどんどん声が大きくなる。
私は彼に仕事ぶりを認められてプレゼンを任されたのだと思っていた。
それが身体目的で安く見られていたとしたなら、私はどうすれば。