宿り木カフェ
Case5 美人故に結婚が難しくなった29歳
昔から、私、木内麗華はそれなりにもてた。
学生時代は、すぐに結婚しちゃうね、なんて友人から言われるほどで、自分でもそう思っていた。
だけれど、私に近寄ってくる男は、私の外見目当てが多かった。
だから付き合った男達は色々な場所に連れて行った。
そう、私を見せびらかすために。
若くて美しい、は本当に武器だった。
私は相手を選ぶことが出来た。
会社社長やら政治家とも交際したことがある。
でも、みんな長くは続かなかった。
それでもすぐに次が来るのだから気にすることも無かった。
その間、友人達がどんどん結婚していく。
まだ20代も前半なのに、なぜそんなに自分から自由のない檻に入りたがるのか、いまいち理解出来ず傍観していた。
そしてそろそろ30歳も近くなった時、状況は一変した。
あれだけ頻繁に声をかけてきた男達が、一人、また一人と消えていった。
最初はまぁそんなこともあると思っていた。
深く考える必要など無いと思っていたのだ。
「そりゃ、男は美人より若い女が良いに決まってるじゃない」
未だ独身同士という事で一番気が合う友人と食事をしていたらそう言われた。
「あのね、私達何歳だと思ってるの?
20歳前後の娘に勝てるわけないじゃない。
凄く美人の30歳より、ほどほどの20代の前半を男は妻に選ぶのよ」
私はぽかんとして言葉もない。
「男とそれなりに付き合ってるのに、なんでそういうところに頭が回らなかったかな。
美人でいつ浮気されるか心配で過ごすより、安心出来るくらいのレベルのほどのどな女を男は選ぶの」
「そんな頭悪いって言わないでよ」
「だって辺に男慣れしてないんだもの。
まともに恋愛したことあるの?」
「まともな恋愛の定義について是非ご教授を」
「私に仕返ししたい気持ちはわかった。
ようは男が彼女にしたい女と結婚したい相手は違うって事」
「で、私は彼女にしたい女で止まる訳ね」
そう言った私に、友人は少し意外そうな顔をした。
私はため息をつきつつ答える。
「私だって自覚してるわよ」
「そっか。
それが悪いとは思ってないけど、わざとそうしてるのかと思った」
友人の言葉に私は苦笑いして言葉を続ける。
「昔から相手の方から寄ってくるから、それで良いのかなって思ってたんだよね」
「多くの女性を今、敵に回したからね」
「いや、だってそうだったし」
そういうとギロリと睨まれ、思わず顔を背けた。
「私も婚活中で偉いことは言えないけどさ、こっちは普通のルックスだから、仕事が忙しくて出会い所じゃなかったと言えば、東京ならこの歳でも全然平気なのよ。
でもさ、麗華は美人でどうみても男がほっとかないことくらい誰だって分かる訳よ。
それが未だ独身って事は、理想高いんじゃないかと思って新しい男は手を出しにくいんだと思う」
「別に理想高くなんて無いわよ」
「でも今まで社長だのなんだのと付き合って散々贅沢味わっておいて、急に庶民と付き合えるの?」
「なんか勘違いしてるけど普通の人とも付き合ったことあるよ?」
「どんな人?」
「大学生とか」
「それって大学生の時に大学生と付き合ってたってことよね?
まさかその歳でめっちゃ年下の大学生と付き合っていたというのじゃないわよね?」
「そりゃそうよ、大学時代の話」
「それは含めるな」
真顔になった友人に厳しい声で言われ、私は不満そうな顔を浮かべてしまう。
「とりあえず、麗華も本腰入れて婚活したほうが良いって」
「例えば何したらいい?」
そうねぇ、と友人は少し宙を見て考えている。
「お金があればきちんとした結婚相談所登録するのがいいんじゃない?」
「そっちは何をしてるの?」
「ネットの婚活サイトにいくつか登録してる」
「どんな感じ?」
「少なくとも私はイマイチ。
食事くらいはするけど、ほとんどそれで終わるかな」
「なんだそりゃ」
「言っておくけど、私の基準が厳しすぎるんじゃないのよ。
こういう場所で結婚までいった人もそれなりにいるけど、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるよな戦法を取る所よ、ここは。
素敵な人に出会える人達も居るけどそれはイレギュラーだわ。
でもやらないよりマシなのよ」
そういうと友人は盛大にため息をついた。
イレギュラーな婚活サイトに登録する意味ってなんなのだろうと友人を見て思う。
「わかった。
とりあえず、ネットの婚活サイトでも登録してみるかな」
結婚相談所はハードルが高そうだけれど、ネットなら気軽な気がする。
そう言った私に、友人はいくつか自分の登録しているサイトを教えてくれた。
「麗華は写真だけで選ばれる可能性高いから、それなりにメール来るだろうし覚悟しておきなさいよ」
友人は最後、真面目な顔で私にそう忠告した。