宿り木カフェ


「さて、初参加のイチロウ様と、本日でスタッフを辞められるヒロ様が顔合わせするのも今日が最初で最後です」

「あれ?ヒロさん辞めちゃうの?」

「えぇ、再婚を機に」

オサムの声に、少し照れたようにヒロが答えた。

「うっそ!また独身者が減る!!!」

「あの、僕も独身ですよ?」

「君、大学生だろう?!結婚関係無いだろう?!」

オサムの悲痛な声に、イチロウは普通に声をかけたが、どうも声をかけること自体まずかったようだ。
それをリュウがくすくすと足を組みながら笑っていた。

「リュウ君その余裕やめて」

「オサムさんの場合、そもそも結婚に興味が無いでしょう?」

「いや、なんというか」

「おや?」

口ごもったオサムに、リュウは面白そうにしている。
それを静かにみていたセイヤが二人を見た後、二人からの反応を受けて話し出した。

「Dチームは、ヒロ様が50代、オサム様が40代、リュウ様とタクヤ様が30代、イチロウ様が20代と非常に良いバランスだったのですが」

「いや、申し訳無い」

「喜ばしい事です。
単にこちらの勝手な話ですのでお気を使わせてしまい申し訳ありません。
幅広く意見を交わせるように、ヒロ様の後に入られる方もある程度人生経験のある方をと思っています。
それはまた今後と言う事で、まずは運営側から一点。
オサム様」

「あーいや、申し訳無い」

「そこ、真似しない」

頭を掻いたオサムにリュウが笑って突っ込む。

「何かあったんですか?」

そう尋ねるヒロにオサムは身をただし口ごもったのをみて、セイヤが口を開いた。

「オサム様からこちらに連絡がありまして、お客様に大変失礼な発言をしてしまったと。
ついては返金及びスタッフを変えて欲しいとの事でした」

そうセイヤが言うと、目線をオサムに投げ、一斉に皆がオサムを見た。
ヒロもスタッフ歴が長いが、オサムがそういったミスをしたのを聞いたのは初めてだった。

「何があったかというと、その、お客様の知りたくない事を探偵気取りでずかずかと話してしまって・・・・・。
彼女が辛くなって途中で切り上げてしまったんだ」

「で、ご自分でそうなってしまった理由はわかっているんでしょう?」

リュウがオサムに尋ねる。
なんとなくリュウはオサムがそんな状況になった理由が分かった気がした。

「とても彼女は自分に近くて、それでいて話しやすかったんだ。
あくまでこちらがスタッフ、相手は客、そのスタンスを今まで保ててきたんだけど、今回はどうしてか」

「好きになっちゃったんですか?」

少ししどろもどろに話すオサムに、イチロウがずばりと聞いた。
それにオサムがうっとなっている。

「イチロウ君ナイス」

タクヤが親指を立てながら楽しそうに追い打ちをかけ、オサムの顔がどんどん俯いていく。
そこを、まぁまぁとヒロが声をかける。

「そういう事もありますよ、こちらも人間なんですから。
ただでさえ男女で話すんです、そういう事が起きない方が無理というものですよ?
あ、私はありませんでしたが」

「ヒロ様は父親的立ち位置としてお願いすることが多かったですしね」

「いや、年齢は関係無いよ。
たまたまヒロさんと合う女性がいなかっただけでしょう?」

セイヤのフォローをリュウが意見した。

「そうですね、確かに年齢は関係無いと思います、失礼致しました。
お客様から熱烈な指名やその後も続けて欲しいなどの要求メールは割とありますが、スタッフ側から何か、というのはあまりないですから。
もちろんスタッフの皆様達一人一人で解決されてこちらに情報が来ていないだけかもしれませんが」

「録音とか運営で聞いてるとか無いんですか?」

イチロウが以前から思っていたことを口にするとセイヤは、

「いえ、そう言ったことはしておりません。
規約にも書いていませんので。
ただ言った言わない、というトラブルがわずかですがありますので、悩ましいところですね」

イチロウの疑問に、セイヤはそう答えた。

「さて、このお話を含め、各自お話ししたいことを席順でお願い致します。
スタッフの対応向上、意見交換、何よりも、カフェでの事は外では話すことは出来ませんので、ここでお話しすることで精神的に少しでも消化して頂ければと思います。
では、ヒロ様から」

セイヤに促され、ヒロはコーヒーを一口飲むと、話し始めた。
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