【シナリオ版】仮面公爵の素顔は溺愛する令嬢のみぞ知る

第1話

○黒町家屋敷(夜)
 江芭、黒い着物姿の女中に白無垢姿で広間に入り、屋敷畳の上を歩く。久仁和、上段左側に座り江芭に白い仮面越しに目線を向ける。
 
江芭М「仮面の公爵。まさか、黒町家の公爵様から求婚されるなんて、思ってもいなかった」

 広間には着物姿の参列客がずらりと左右に分かれて座っている。

江芭M「それにしても、急にどうして……」

 江芭、ちらりと横目で久仁和を見る。久仁和は目を合わせようとせず、表情は分からない。

○回想・病院の診察室(昼)
 江芭、中年くらいの医者から診察を受けている。

医者「異常無しです。喘息も落ち着いています」
江芭「ありがとうございます」
江芭M「ここにはよく訪れているなあ……」

 フラッシュバック 
 左頬にやけど痕を持つ10代半ば少年の顔のコマ。

江芭M「あの子、元気にしているだろうか」

〇回想・神原家の屋敷(昼) 
 両親と江芭、妹の薫(かおる)の4人が机を囲むようにしてソファに座っている。父親、ゆっくり立ち上がって机に1枚の手紙を置く。

江芭の父「江芭、婚約が解消される事になった」

 江芭、え。と困惑の表情を見せる。薫、眉を顰めながらくすりと笑う。

江芭「どういう事なのですか、お父様?」
江芭の父「見ての通りだ。それに周りの華族の者から婚約を破棄するようにとも言われたらしい」
江芭の母「うそでしょ? 喘息が治らなくてもいいって言ってたじゃない!」
江芭の父「やはり、考え直してほしいという事だった。すまない」
江芭「そうですか……」

 薫、その場から立ち上がる。

薫「お姉様、また婚約破棄じゃない。やっぱり身体が良くないからこうなるのよ」

 薫、江芭を指さしてバカにして笑う。江芭の父、立ち上がって薫を制止しようとするが薫は聞く耳持たない。

薫「そんなんだから婚約されないのよ。行き遅れのお姉様ほんとかわいそう!」
江芭の父「いや、薫。その、江芭だって……」
薫「だってそうじゃない。これで跡継ぎは私ね。そろそろ認めてくれたっていいじゃない!」
江芭の母「薫……」
江芭の父「……」
江芭M「薫はすでに侯爵家との間で婚約が決まっている。それに侯爵家は何人か息子がいる。だから彼には婿養子として来ていただいて薫があ実家の跡を継ぐつもりなのだろう。私が一応は実家を継ぐとは決まっているけど、薫はそれが気に入らないみたい」
薫「ふん、お父様とお母様はほんとはっきり言わないんだから!」

 薫、どすどすと足音を荒々しく立てながら自室へと戻っていく。

江芭の父「江芭、すまない……」
江芭M「それにお父様は元は跡継ぎではなかったし性格的にも薫には強く言えない。母親も元は芸妓出身だから侯爵家と婚約が決まっている薫に強く出れない。薫の言いなりだ」
江芭「お気になさらず。良いご縁がまたありますよきっと」
江芭の母「そうね……」

 紺色の着物に白い割烹着を着用した女中A、白い手紙を持って部屋に入室してくる。

女中A「旦那様。奥様。こちら田辺家からのお手紙です」

 女中A、江芭の父に手紙を渡す。

江芭M「田辺家……侯爵家の1つで薫と婚約を結んでいる松夫(まつお)様のご実家……!」
江芭の父「薫と松夫様との婚約披露の場か。そこにご両親と江芭も出席してほしいとの事だ」

 薫、再び部屋に現れる。

薫「お父様、お母様! お手紙来ましたか?」
江芭の母「ええ。来たわよ。良かったわね薫」
薫「ありがとうお母様。勿論お姉様も行くわよねえ?」

 薫、したり顔で江芭を見やる。

江芭M「さては見せつけるつもりね。別にここで留守番してもやる事ないし、行ってあげようかしら」
江芭「勿論よ。妹の門出を祝わない姉がいるとでも思ってるの?」

 薫、江芭の強気の発言に一瞬顔を忌々しくゆがめるも、すぐに笑顔を浮かべる。

薫「ありがとうお姉様。早く結婚できるといいわね。まっ喘息持ちで子供を産めなさそうなお姉様には無理か! あっははは!」

 薫、高笑いを浮かべながら部屋から退出していった。

江芭の母「江芭、無理に行かなくてもいいのよ?」
江芭「いや、行きます。新たな出会いの場に繋がるかもしれないですし」
江芭M「そう考えないとやってられない」
江芭「なので気になさらないでください」

 江芭、作り笑いを浮かべて両親を見る。

〇回想・ホテルの大広間(昼)
 江芭とその両親、着飾ってホテルの大広間の中で立って辺りを見渡す。他にも招待客が美しく着飾って会話をしたりして楽しんでいる。

司会「では、松夫様と薫様のご入場でございます」

 松夫と薫、手をつないで後ろの出入り口から歩いて入場する。招待客、歓声を挙げる。

江芭M「来た」

 松夫と薫、ステージに上がり招待客に目を通す。

司会「この度はお越しいただき誠にありがとうございます」

 松夫と薫、そろってお辞儀をする。

司会「では、松夫様よりお言葉を頂こうかと思います」
松夫「田辺松夫と申します。本日は私達の婚約披露の場にお越しいただき誠にありがとうございます。つきましては……」

 松夫のセリフを遮るように、いきなり出入口の扉が荒々しく開かれる。招待客、驚きの声を挙げる。

招待客A「きゃああっ」
招待客B「なんだなんだ!」
江芭の両親「何?」

 江芭、おそるおそる扉の方を振り向く。黒町久仁和、手下を引き連れ扉の前に立ち招待客と松夫と薫を睨みつける。

招待客A「あ……黒町様! あの仮面の公爵と噂の……!」
招待客C「仮面の公爵様だ! あの白い仮面、まさしく……!」

 招待客、一斉に久仁和に目線を向ける。薫、唇をぎゅっと結びながら久仁和を見る。

江芭M「あれは黒町久仁和様……! 白い仮面をつけていて、素顔は誰にも見せないと言う公爵様。数々の銀行や財閥を束ね皇族や政治家の方々とも深い繋がりがある人物……!」
テロップ「黒町家は公爵家。その当主が久仁和で数々の銀行や財閥を束ねその頂点に君臨する存在だ。勿論政治家や皇族、軍人らとの繋がりは深く、経済面では日本をほぼ掌握している存在と言えなくもない」
江芭「そのような方が……お父様、黒町様は招待されて訪れたの?」
江芭の父「いや、名簿には載っていなかったはずだが……何か不具合でもあったのだろうか……」
江芭の母「薫に限ってそのような事はするとは思えないけれど……勝ち気な子とはいえ公爵家に無礼な事をあの子がするかしら?」
江芭M「確かにお母様の言うとおりだ。そこまで薫もバカな子じゃない」

 久仁和、すたすたと江芭の元まで歩み寄る。

久仁和「神原(かんばら)家のご令嬢は貴様か?」
江芭「えっ……」

 それを見た薫、ドレスの裾を持ち上げながら久仁和の元へと走る。

薫「私です!」
久仁和「貴様は妹の方だな? なら用はない。姉の方に用がある」

 薫、口をぱくぱくさせるがすぐに江芭の元へ振り返る。

薫「あらやだお姉様。黒町様を怒らせるような事でもしたのかしらぁ?」
久仁和「残念ながら俺は怒っていない。むしろとても気分が良い」
江芭「えっ」

 久仁和、江芭をひょいっと軽く持ち上げお姫様抱っこをする。その様子を江芭の両親に招待客、松夫と薫が目を丸くして見ている。

久仁和「では諸君、大事な場に横やりをしてしまい申し訳ない。引き続き楽しんでくれたまえ!」
江芭「えっちょっ」
江芭の両親「あっあの……」

 久仁和。江芭をお姫様抱っこしたまま広間から颯爽と出ていった。

江芭M「えっどういう事ーー?!」

 江芭の視界、そのままブラックアウトする。

〇回想・黒町家屋敷・ある一室(夜)
 江芭、目を覚ます。

江芭「ここは……」

 江芭の視界には見知らぬ部屋の天井が飛び込んでくる。江芭、白い布団を押しのけるようにして起き上がる。久仁和、その様子を江芭の左側に座って仮面越しに見ている。

久仁和「気が付いたようだな」

 久仁和、江芭に近寄り彼女の顔を覗くようにして見つめる。江芭、肩を少し跳ね上げ驚きつつ緊張の面持ちを浮かべる。

江芭M「近い近い!」
江芭「あっあの! 黒町様、ですよね……?」
久仁和「いかにも。俺が黒町久仁和だ」
江芭「あっえっと……神原江芭と申します」

 江芭、その場で久仁和に向けて座礼する。

久仁和「頭をあげろ。別にそこまでかしこまらなくていい」
江芭「えっで、でも……」
江芭M「相手は公爵家。無礼があっては……」

 久仁和。江芭のあごに右手を添える。

久仁和「貴様はこれから俺の妻となるのだから」

 久仁和の白い仮面の裏側からは、眼光が鋭く光る。江芭、目を見開き汗をかきながらも久仁和を見つめる。



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