【シナリオ版】仮面公爵の素顔は溺愛する令嬢のみぞ知る

第3話

〇黒町家屋敷・寝室(夜)

久仁和「……そういうと思った。結論から言うと俺は貴様が欲しかったんだ。ああ、貴様の縁談はな、断るように指示していたのは紛れもなく俺だ」
江芭「……え」
江芭M「ど、どういう事? 黒町様……久仁和様が私に届いた縁談を断るように仕向けていたという事?」

 江芭、眉をひそめ混乱の表情を浮かべる。

久仁和「どうして? とでも言いたいような顔してるな」
江芭「だ、だって……」
久仁和「ほう?」
江芭「どうして、私を……」
久仁和「覚えていないのか」
江芭「何を?」

 久仁和、右手を仮面に触れ仮面をそのまま取る。久仁和の目鼻立ちが整った美しい顔の左頬にはやけど痕がある。

江芭M「ああ……思い出した。見た事がある」

〇回想・病院の廊下
 当時10歳の江芭。父親に連れられ病院の廊下にある椅子に座っている。

江芭「もう次ですか?」
江芭の父「ああ、そろそろだ」

 廊下の前を黒い着物姿の少年が通る。その少年の左頬にはやけどの痕がある。

江芭「!」
江芭M「やけどの痕だ……」

 回想終了

江芭「もしかしてあの時の……?」
久仁和「思い出したか。貴様と同じ病院へ通っていたな。今はもう通っていないが」
江芭「だから仮面で隠していたんですか?」
久仁和「ああ……医者からは治らないと言われたからな」
江芭M「そんな事が……」
久仁和「それにもう1つ」
江芭「もう1つ……?」
久仁和「せっかくだ。話そう」

〇回想・十数年前 人気のない路地裏
 久仁和(14)借金取りの男性3人に殴られている。

久仁和「やめろ! それは母さんの大事な着物なんだ!」
男性A「うるさい! じゃあ借金返せ!」
男性B「あんたらが借金返さねえのが悪いんだよ!」

 男性B、久仁和の左脇腹を蹴る。久仁和、うずくまる。

久仁和「ぐっ!」
男性C「とりあえず懲らしめておく必要があるなあ」

 男性C、マッチに火を付け久仁和の左頬を炙る。

久仁和「ああああ!」

 久仁和、あまりの痛さに絶叫し横に転がり地面に頬をこすりつけて火を消す。

久仁和「はあっ……」
男性C「ふん、これくらいにしといてやる」
久仁和の母親「久仁和……!」

 久仁和の母親、後方からよろけながら久仁和に近寄る。

久仁和の母親「ああ、やけどが……」
男性C「借金を返さねえのが悪いんだ。この着物もらってくぜ」

 借金取り、その場から歩いて立ち去ろうとすると江芭(9)と女中が現れる。

江芭「その着物、返して差し上げてよ!」
男性A「なんだぁ? 嬢ちゃん」

 江芭の父親、江芭を追いかけて後方から走ってくる。

江芭の父親「江芭!」
江芭「お父様、この人着物を奪い取ろうとしてるの!」
江芭の父親「えっ?」
久仁和「返してやってください、母さんの大事な着物なんです!」
江芭の父親「……」
男性B「はあ? 借金返さねえからだろ!」
江芭「お父様お願い! お金を渡して着物を返すの手伝って! 可哀想なのは良くない!」

 江芭の父親、腕を組んで考える仕草を見せる。

江芭の父親「何円だ?」
男性A「えっと……」

 江芭の父親、お金をいくらか掴み江芭に渡す。江芭、男性Aにお金を突き出す。

江芭「はい。これで借金はチャラ! 着物も返してあげて!」

 男性C、着物を久仁和に向けて放りなげるようにして返す。借金取り、その場から立ち去る。

久仁和「あ、ありがとうございます」
江芭「どういたしまして」
江芭の父親「江芭、もう時間だ」
江芭「あ、茶道に行くんだった。じゃあ!」

 江芭達3人、その場から急いで立ち去る。

久仁和「……」 

 回想終了

◯黒町家屋敷・寝室(夜)

久仁和「その時の少女が貴様だったというわけだ」
江芭M「病院で見かけたのは覚えてたけど、これは覚えてなかった……こういう借金取りに遭遇するの、何度もあったから」
江芭「それで、どうして……黒町家に?」
久仁和「母親が当時の当主、父親の妾になったんだ。正妻である夫人との間に子供がいなかったのもあってな。それで俺が跡継ぎになり、当主になった。父親も母親も、正妻も今はいない」
江芭M「そう言えば亡くなったって言っていたな」
江芭「そんな事があったのですね……」

 久仁和、江芭の両手をそっと自身の両手で挟むようにして握る。

久仁和「ずっと貴様を探していた。貴様としか結ばれたくなかったからな」
江芭「そんなに、私の事を……」

 久仁和、江芭を抱き寄せ、ぎゅっと抱きしめる。

久仁和「もう離す事は無い。貴様は俺の大事な妻だ」
江芭「久仁和樣……」
江芭M「そこまでしてまで、私の事を……」

 江芭、目を閉じる。

江芭M「私は、このまま……」
江芭「!」

 江芭、突如咳き込み始める。

江芭「げほっ!」

 江芭、久仁和からよろよろと離れながら右手で口を抑える。

久仁和「江芭!」
江芭「すみませ、げほっげほっ! げほっげほっげほっ」
久仁和「発作か。すぐに医者を呼ぶ!」
江芭「あ、あり……」

 久仁和、立ち上がり白い仮面をつけながら大股歩きで寝室を後にする。

江芭M「ああ、そうだ。久仁和様に攫われてから薬を飲んでいない。だから……」
江芭「げほっげほっ」

 江芭四つん這いになり何でも咳き込む。

江芭M「苦しい。誰か……」
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