蓮の花咲き誇る池に落ちた蜻蛉玉
壱
鐵家が治めているこの国は、とても平和だ。
人々には活気があふれ、市場もにぎわい、平民も貴族も皆幸せそうに暮らしている。
その都の京の朝、城下町の一画では騒々しく人々が動き回っておりました。
「まだ見つからんのか!」
「申し訳ありません。くまなく探しているのですが…」
腹立たしさを隠せない中年の男は、この家の主だ。
動揺しているのか、同じ場所を行ったり来たりを繰り返している。
「なぜ今になって、、儀の準備を始めていたというのに」
「…美鈴様をお呼びしましょうか?」
床に頭をつけたまま、震えた声で意見を伝える従者。
「はぁ、仕方ない。うちにはあの子しか残っていないからな」
「では、呼んでまいります」
男が去ろうと、顔を上げようとしていると
「美鈴なら菓子を買いに行くように頼みましたよ」
「奥様、おはようございます」
「えぇ、おはよう。でも、あなた、美鈴には少し早いお話じゃないかしら」
途中で入ってきた綺麗な着物を着ている女性は、この家の女主で、
腹が立っている主人に優しく声をかける。
「だが、薫がいなくなった今、嫁げるのは美鈴しかいないだろう?」
「美鈴は世間を知らなすぎるわ」
「…その方がいいのかもしれない」
主人は、手で合図をし、下がるように命じると従者はすぐに下がっていった。
「薫め、最後まで迷惑をかけよってからに。」