Once again

その絵を一目見た瞬間、菱田藍（ひしだあい）の心に大きな衝撃が走った。体が固まり、目が離せなくなる。まるで誰かに恋してしまった時のように鼓動が高まり、口がゆっくりと開いていった。心が感動に震えていくのがわかる。

中学三年生の夏のこと。藍が所属している美術部は、市が主催する絵画コンクールに出品することになり、美術部全員の描いた作品が広いフロアに展示されている。今日藍は美術部全員で作品を見に来たのだ。

キャンバスの上に白い砂浜と青い海が広がっており、その中心に白いワンピースを着た少女がひまわりの花を両手に抱えている。その少女の顔はどこか切なげで、その表情に藍の胸が締め付けられていく。

『落合理沙（おちあいりさ）　八月の少女』

名前と作品名が絵の下に置かれたプレートに書かれている。全く知らない名前と初めて見る絵だ。しかし、まるで時代を越えて愛されている有名画家の絵を見ているような気持ちになっていく。

「綺麗な絵だな……」

思わず呟いてしまった。ぼんやりとしながら絵に手を伸ばしかけ、ハッと我に返って手を伸ばしたまま固まる。この美しい絵に触れたいと思ってしまったのだ。