姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
 元々雅貴さんは、私の姉の許嫁だ。

 旧大名華族の血を引く我が三上家と、久宝総合病院という都内随一の大病院を経営する雅貴さんの家は先祖代々のつながりがあり、両家の祖父がふたりの結婚を決めた。もう二十年以上も前の話だ。

 祖父いわく由緒正しい家柄に生まれ育った姉の凛花と、大病院の院長の一粒種である雅貴さんは同い年で似つかわしく、ふたりはいつか理想の夫婦になるだろうと誰もが思っていた。

 半年前までは。

 年明け早々、寒さがことのほか厳しかったある日のこと。

 家族が集まるリビングで、姉はいきなり祖父に楯突いたのだ。

『私は雅貴さんと結婚しないわ。おじいちゃんに決められた許嫁なんて時代錯誤よ。生涯を共にする相手くらい自分で決めさせて』と。

 姉はなにかと理由をつけては結婚の時期を遅らせていたけれど、それでも祖父の意向に沿っていると考えられていたので、家族全員が面食らった。どうやら反抗する機会を窺っていたようだ。

 当然かもしれない。今年九十五歳になる祖父は形骸化した家名に今もなおこだわり、久宝総合病院と縁を結ぶことでさらに家の格を上げたがっているけれど、現在の我が家は一般家庭なのだ。言うまでもなく華族が若様、お姫様と呼ばれていた時代はとうの昔に終わっている。受け継ぐものなどなにもない。

『どうして今さらそんなことを言い出す。勝手なことは許さんぞ』

 祖父は激昂した。しかし姉はまったく怯まない。

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