姉の許婚に嫁入りします~エリート脳外科医は身代わり妻に最愛を注ぐ~
『雅貴さんとはきちんと話し合い、了承を得ているわ』

『個人の問題ではない、家同士の問題だ』

 祖父が声を荒らげたとき、玄関のインターホンが鳴った。

 すぐに姉が出迎えにいき、リビングにスーツ姿の男性を連れてきた。もうすぐ三十歳になる姉より少し年上だろうか。背が高くて胸板が厚く、がっしりとした体型をしている人だ。

 姉以外の家族全員が眉をひそめた。

『はじめまして。凛花さんと交際させていただいております、寺地(てらち)禎人(さだひと)と申します』

 緊張した様子で挨拶をする彼は、姉が勤めている会社の同僚だという。

『私たち、結婚したいと考えているの』

 姉は寺地さんの隣に並び、そう意思表示した。雅貴さんと結婚しないというだけではなく、すでに心に決めた男性がいたのだ。

 寺地さんは土下座し、『どうか凛花さんと結婚させてください』と許しを乞う。姉は『認めてもらえないなら家を捨てるつもりだから』と祖父に訴えた。

 しかも両親までもが『凛花には凛花の人生を生きさせてあげて』と援護し始めたので、祖父は唖然とするしかしなかった。実は両親も許嫁など時代錯誤だと思っていたようだ。姉が雅貴さんとの結婚を望んでいるなら口出しするつもりはなかったが、そうではないなら話は別だという。

 最終的には祖父が折れるしかなかった。

『だから凛花を外で働かせるのは反対だったんだ。悪い虫がつかぬように、蝶よ花よと育ててきたのに』

と、祖父は寺地さんが帰ったあとも延々と恨み言を並べていたけれど。

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