すみっこ屋敷の魔法使い
 屋敷に戻ると、モアはどきどきしながら便せんを取り出した。
 
 そして、ペンをとる。


「……え、……っと」


 あれ、何を書けばよいのだろう。

 文房具屋にいた女の子たちは、願い事を書くと言っていた。しかし、モアには願いごとがない。

 〝この屋敷から出たい〟?

 〝助けてほしい〟?

 思い浮かぶ言葉に、ピンとこない。

 うんうんと考えて……ぱ、と頭に浮かんだのが、あの女の子たち。きゃっきゃっと楽しそうに話していた二人を、モアはなんとなく「うらやましい」と思っていた。

 ペンを動かす。

 花模様の便せんには、〝普通の女の子になりたい〟。その言葉。

 書いてから、モアはため息をついた。

「すみっこ屋敷」の住所を知らない。

 手紙は住所がなければ、届けることができない――ということは知っていた。

 ああ。モアはもう一度ため息をつく。

 ほんのりと、希望を抱いていたのだ。もしもこの手紙が「すみっこ屋敷」に届いたら。もしかしたら、普通の女の子のようになれるのではないかと。

 そんなうまい話はないのだ。

 モアはがっかりとしながらも、なんとなく「すみっこ屋敷様」と宛名を書いてみる。意味なんてないのだけれど。

 もしもこの手紙をポストに投函したら、どこへ届くのだろう。戻ってくるのだろうか。差出人を書かなければ、戻ってくることもないのだろうか。

 行き場のない手紙の行き先を考えて、少しだけ楽しくなった。

 そのうち、この手紙をポストに投函してみよう。そんなことを思った。
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