すみっこ屋敷の魔法使い
 午前中は、勉強の時間。

 朝食を食べると、モアは自分の部屋に戻った。勉強を始めようと机に近づいて――「あ」とモアは声をあげる。

 机の上には、ひとつの封筒が置いてあった。

 ――モア・アレリード様

 自分宛の手紙。

 誰が置いていったのだろう。エディ?

 不思議に思いながら封筒を手に取って、封蝋を剥がす。なかには、一枚のカードが入っていた。

 ――モア様。お手紙をありがとう。貴方を、屋敷にご招待します。


「……すみっこ屋敷」


 少し前に、モアは「すみっこ屋敷」に手紙を送った。宛先も書かず、ポストに手紙を投函したのだ。どこにも届かないだろう――そう思っていたのだが。なんと、手紙は届いたらしい。

 わ、と胸が跳ねる。

 招待状を持って、モアは駆けだした。

 すみっこ屋敷に招待された。それが嬉しくて。

 招待されたところでどこへ行けばよいのだろう。それはわからなかったが。モアは衝動的に走り出していた。

 はあ、はあ、と息をきらして。屋敷の外に向かって駆けてゆく。途中、エディとすれ違って、エディは酷く驚いていたがお構いなしだ。

 ばたん、と大きな音をたてて、モアは外へ飛び出した。

 ――するとどうだろう。信じられない景色が広がっていた。

 扉を開ければ、いつもの屋敷の庭園があるはずだった。しかし、そこに会ったのは見慣れぬ光景。花が咲き誇る花園。そのなかに――小さな屋敷がある。

 ハッと振り返ってみれば、エディの屋敷は消えていた。

 どうなっているのだろう。不思議でいっぱいだったが、モアの関心はただ小さな屋敷に向けられる。

 あれが、「すみっこ屋敷」。

 ドキドキしながら屋敷に近づいてゆく。ふわ、と優しい花の香りがする。

 コンコン。扉を鳴らしてみる。コンコン。もう一度。

 そうすると、きい、と扉が開いた。

 屋敷のなかから一人の青年が出てくる。青年はニコッと微笑んで、モアに言ったのだった。


「ようこそ、すみっこ屋敷へ――モア・アレリード様」
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