シェフな夫のおうちごはん～最強スパダリ旦那さまに捕まりました～
　一瞬固まった利香は、慌てて愛想笑いをする。

「やだわ。何のことかしら」
「あなたはわざわざ俺の妻を探し出してわざと水をかけて俺の妻にハンカチを渡したのだろう？」

“俺の妻”を連呼する明人に、利香はうんざりした顔をする。

「知らなかったのよ。あなたの奥さんだなんて」
「警告だ。俺の妻に二度と近づくな」
「そんなに怒らないでよ。あんまり声を上げると誰かに聞かれてしまうわよ」

　利香が周囲を見回すと、ちらちらとこちらを見ている人がいた。
　しかし明人はまったく動じることなく、声のトーンをそのままで彼女に告げる。

「それでいい。何度でも言う。俺の妻に」
「もういいわ」

　利香は不貞腐れた顔で立ち上がり、つかつかと明人に近づくとハンカチを奪うように取って言った。

「どこがいいのよ、あんな子。あなたのことを何も理解していないわ」

　明人は無言で彼女を見据えたまま動じない。
　利香は唇をぎゅっと噛んで去り際に言い放つ。

「後悔すればいいわよ」

　バタバタと彼女が立ち去ったあと、明人はため息をついてぼそりと洩らした。

「誰よりも理解してるよ」

　波留は誰より明人のことを理解している。正確には明人の趣味趣向を彼女は無意識にわかっているのだ。

< 101 / 178 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop