シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 今まで誰も明人を本当に理解している者はいなかった。
 誰もが彼の表の顔を見て理解している気になっている。
 しかし波留は出会った瞬間から、その存在そのものが彼の理想であり、普段の言動すべてが彼にとって心地よい。
 彼のことを真に理解しているのは波留だけだった。

(まあ、本人は気づいていないだろうが)

 浅井が予約した店に遅れて到着した明人は、数人の部下たちに囲まれて無言でビールのグラスを空にしていた。するととなりにいる浅井がメニューを見せて声をかけてきた。

「穂高さん、グラス空いてるじゃないっすか。次頼みましょ、はい。今日は奥さん家でひとりですか?」
「……同僚と食事」
「あ、もしかして結婚式に来てたあの子? 綺麗な子がいましたよね」
「さあ?」
「もうー、穂高さんは奥さんしか見えてないでしょ」
「ああ、そうだよ」

 浅井が笑顔のまま固まって、ふたりの話を聞いていた者たちも驚いて目を見開いた。
 少しの沈黙のあと、浅井が顔を引きつらせて言った。

「のろけっすか」

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