シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 ほんのり薔薇と甘い香りが混じった香水はどう考えたって女性のものだし、明人さんはこんなの付けない。
 誰かの匂いがつくなんて、よほどその人の近くに長時間いたのか、あるいは――。

 抱き合ったということ!?
 そ、そんなことあるわけない!!

「波留? どうしたの?」
「え? な、なんでも」

 何でもないわけないよ!!

「明人さん、今夜はどこで食事をしたんですか?」
「え?」

 彼は少し怪訝な表情をした。だから私は慌てて補足する。

「もし、美味しいお店だったら、私も行きたいなあって」

 私の笑顔は大丈夫だろうか?
 引きつっていないだろうか?

「ああ、うん。まあ、美味しかったよ。でも、もう一度行きたいかと聞かれたらそうでもないかな」
「そ、そうなんですね」

 明人さんは上着を脱いでハンガーにかけたあと、洗面所へ行った。私は彼の姿が見えなくなるとすぐに上着の匂いを嗅いでしまった。

「……匂い、しないな」

 私の考えすぎだろうか。
 もしかしたらものすごーく香水の匂いがする女性が会食の場にいたのかもしれないし、ひょっとしたら電車ですっごい匂いの女性が近くにいたのかもしれない。

 そうだ。明人さんが女性とふたりきりで何かするわけないんだから!

< 131 / 178 >

この作品をシェア

pagetop