シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
「俺思うんですけど、芦田さんに壁を感じたんじゃないっすかね?」
「何よ? 私が悪いって言うの?」

 利香はぐいっとカクテルを飲み、グラスをテーブルに置いて、半眼で浅井を見つめた。

「いや、悪いとは言ってません。でもさ、やっぱ俺だったら素直な子のほうがいいって思うんで。芦田さんは完璧な自分っていう仕事モードをバシバシ感じるというか、普段男の前でもそうだったら相手が引くかもしれませんよ?」

 利香は目を見開いて浅井をじっと見つめる。
 浅井は急に焦り出す。

「すいません。言い過ぎました。ごめんなさい」

 利香はふっとため息を漏らし、宙を見上げる。

「そうなのよね。私ってほら、容姿が美しいじゃない? 仕事もできるし、だからプライベートでもきちんとした自分を見られていたいっていうか……」
「……そのプライドが問題なんだっつーの」

 浅井がぼそりと口にした言葉を利香は聞いていないのか無視して続ける。

「有名私立大卒、一流企業に就職、語学も堪能、流行には敏感、政治経済世界情勢あらゆることにも精通し、お酒の相手だっていくらでもできるのに」
「その話、たぶん3回目ですね。俺が聞いたの」

 利香は浅井の呆れたような口調のツッコミなど気にするでもなく、グラスを手に持って揺らしながらカクテルを見つめた。

「夜の相手だって満足させてあげられるはずよ」
「へえ、そうなんですか?」

 浅井は興味なさそうに適当に言い放ち、利香とは反対側へと顔を向けると、目が合った明人はいきなり立ち上がった。

「帰る」
「ちょっ、ちょっと待っ……待ってくださいって!」

 浅井は明人の腕を掴んで必死に引き止めた。

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