シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
―――
――――――
明人は中学1年生の頃、夏休みに母方の祖母の家に預けられた。
彼には2階の部屋が与えられ、最初のうちはそこに引きこもって勉強と読書で時間を潰した。
窓を開けていると波の音が聞こえてきて、それに耳を澄ませることもあった。
海の音に誘われて、彼は昼間に外出をするようになった。
自分と同じ年頃の少年たちが、堤防に座ってアイスを食べながらゲームの話をしている光景を眺めながら歩いた。
幼い頃から受験競争ばかりの環境で育った彼にとって、田舎の少年たちの姿はよくわからなかった。
理解できなかったのは、それだけではない。
祖母の作る料理が苦手だったのだ。
「朝ごはんだよ」
そう言って祖母の出す朝食は、魚の干物と漬物とご飯と味噌汁だった。
彼は毎回、朝食を残した。
そして晩ごはんはもう彼にとって耐えがたいものだった。
「今日は蟹だよ」
茹で上がっ蟹がまるごと出てくるのだ。おかずはそれだけで、あとはご飯と味噌汁だった。
蟹料理とは、身が食べやすくしてある状態か、あるいは刺身やグラタンなどと他の料理の一部として使われているものしか見たことがないので、そのまるごと1匹をどうしたらいいのかわからなかった。
彼は硬い蟹の殻を剥いて食べることに苦労した。
祖母は食事中に話をすることはなく、お互いに何も言わずに食事をした。
明人にはそれが苦痛でならなかった。