シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
「今日の晩ごはんだよ」

 別の日に祖母がそう言って出したのは、アジの塩焼きだった。
 その日は里芋を煮たおかずもあったが、あとはご飯と味噌汁だった。
 明人は祖母と向かい合い、難解なアジの骨を取りながら時間をかけてその身を食べた。

 祖母の味付けはだいたい塩、ときどき醤油といったものだった。凝った料理はなく、明人はそろそろ飽きてきた。
 ハンバーグとかオムライスとか、唐揚げとかフライドポテトを食べ慣れている彼にとって、毎日塩味の魚介類ばかりは苦痛でたまらなかった。

 そして彼はついに、食事を放棄してしまう。
 朝食をまったく食べない明人に向かって、祖母は怒ることもなく冷静に訊ねた。

「美味しくないのかい?」
「美味しくない」

 明人は正直に答えた。
 すると祖母は特に驚くこともなく、冷静に言った。

「食べないと死ぬよ」

 それっきり彼女は何も言わず、黙々と食事をしてさっさと自分の食器を片付けてしまった。

 祖母の態度に腹が立ち、彼は食事を拒否するようになった。
 しかし、さすがにお腹がすくので、近所を歩きまわって駄菓子屋を見つけると、そこでお菓子を買って飢えを凌いだ。

 毎日そのようなことをしていると、ある日店のおばさんに訊ねられる。

「あんた、ごはんを食べていないの?」
「食べたくない」

 明人はそっけなくそう言った。

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