シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 その夜は食欲が湧かず、あまり食事が進まなかった。
 怪訝に思った祖母が訊ねてきた。

「美味くないのかい?」

 それに明人は答えない。その代わり、箸を置いてまっすぐに彼女を見据えた。

「なんで平気なの?」
「何が?」

 祖母は眉をひそめた。

「今朝、近所の人に訊かれたでしょ。あの人、俺のことを不審に思っていたよ。それなのに、孫だって言って」
「事実をそのまま言っただけさ」
「娘の再婚相手の連れ子なんか、血のつながりもないのに」

 祖母は瞬く間に嫌悪感の滲む表情に変わった。そして目の前の明人を睨みつけながら声を荒らげた。

「ぐちぐちうるさいねえ。同じ家に住んで同じ釜の飯を食ってるんだから、お前はあたしの家族なんだよ!」

 祖母は言い終わったあと、急に静かになって味噌汁をすすった。
 明人は呆気にとられた表情で祖母を見つめた。
 祖母は落ち着いた声で冷静に言う。

「さっさと食わないと片付けるよ」

 明人は急いでごはんを食べはじめた。
 彼は目をぎゅっとつむって、ゆっくりと白飯を噛みしめる。
 その様子を見た祖母は静かに訊ねた。

「美味くないのか?」
「……美味い」
「そうだろ。いちいち泣くんじゃないよ」
「泣いてない」

 その日から彼は、二度とその話題には触れなかった。
 その必要はないのだと、わかったからだ。

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