シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
そして夏休みが終わる頃、父親が迎えに来た。
ほんの1カ月と少しのあいだの祖母とのふたり暮らしは、彼にとってあっという間の出来事だった。
東京へ帰る日に、父親とタクシーへ乗り込もうとしたときだった。見送りをしている祖母がたくさんの野菜を持たせてくれた。
祖母は相変わらず口数が少なく、表情も固いままだった。
「じゃあ、元気で」
「お世話になりました。あなたもお元気で」
お互いに淡々とした挨拶をした。
そして、明人がタクシーに乗ろうとしたときだ。
「明人!」
その声に驚いて彼が振り向くと、祖母は変わらず愛想のない顔でこちらを見つめていた。彼女の表情は落ち着いているのに声だけは荒い。
「もしまた来ることがあったら、もっと美味いもん食わせてやる。お前にいろんなことを教えてやるから。いつでも帰って来るといい」
明人はしばらく絶句したまま突っ立っていたが、父親に背中を押された。飛行機の時間が迫っているのだ。
彼は我に返ったようにタクシーへ乗ろうとした。が、足が止まった。
そして父親の手を振り切って、祖母のところへ駆けていき、その懐へ飛び込んだ。
「ありがとう、おばあちゃん」
明人が見上げると、祖母はひどく困惑した表情をしていた。
「じゃあ、またね」
明人が笑顔でそう言うと、祖母は穏やかに笑った。
少し困ったように笑う祖母の、初めての表情だった。
そしてこの表情を見たのは、これが最後だった。
ほんの1カ月と少しのあいだの祖母とのふたり暮らしは、彼にとってあっという間の出来事だった。
東京へ帰る日に、父親とタクシーへ乗り込もうとしたときだった。見送りをしている祖母がたくさんの野菜を持たせてくれた。
祖母は相変わらず口数が少なく、表情も固いままだった。
「じゃあ、元気で」
「お世話になりました。あなたもお元気で」
お互いに淡々とした挨拶をした。
そして、明人がタクシーに乗ろうとしたときだ。
「明人!」
その声に驚いて彼が振り向くと、祖母は変わらず愛想のない顔でこちらを見つめていた。彼女の表情は落ち着いているのに声だけは荒い。
「もしまた来ることがあったら、もっと美味いもん食わせてやる。お前にいろんなことを教えてやるから。いつでも帰って来るといい」
明人はしばらく絶句したまま突っ立っていたが、父親に背中を押された。飛行機の時間が迫っているのだ。
彼は我に返ったようにタクシーへ乗ろうとした。が、足が止まった。
そして父親の手を振り切って、祖母のところへ駆けていき、その懐へ飛び込んだ。
「ありがとう、おばあちゃん」
明人が見上げると、祖母はひどく困惑した表情をしていた。
「じゃあ、またね」
明人が笑顔でそう言うと、祖母は穏やかに笑った。
少し困ったように笑う祖母の、初めての表情だった。
そしてこの表情を見たのは、これが最後だった。