シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~

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「というわけで、本当に短いあいだだったんだけど、いろいろと体験させてもらえて貴重な時間だったよ」

 明人さんは話し終えたあと、静かに私へと目を向けた、けれど。

「え? 波留、どうした?」

 私は号泣して彼の顔がよく見えなくなっていた。

「す、すみません……そんな、悲しい過去を、思い出させてしまって……」
「え? いや、もう悲しいという感情はないけどね」
「でも、本当はおばあちゃんのこと、大好きだったんですよね」

 私は目からだけでなく、鼻からも水が垂れてきた。
 明人さんはさっとポケットテッシュを差し出してくれて、私は鼻をかんだ。

「どうかな……大好き、かどうかは正直よくわからない。でも、彼女と出会ったおかげで今まで気づかなかったことを知ることができた。料理の師匠だし、感謝はしているよ」

 明人さんは冷静に淡々とそんなことを言う。
 そして彼はふと目線を遠くへ向けた。

「あの頃はかなり捻くれていたからね。義母(かあ)さんのことは当然家族とは思えなくて頑なに接しないようにしていたし、家には自分の居場所はないと思い込んでいた。でも」

 明人さんはとなりで私の手をそっと握りしめながら言った。

「他人でも家族になれるのだと、彼女は教えてくれた」

 彼の笑顔の中に、僅かな切なさが混じっていることを私は悟った。
 けれど、彼は淡々と続ける。

「あとは、やっぱり……いつでも会えると思っている人が次も必ず会えるとは限らないということかな」
「明人さん……」
「だから、大切な人にはいつも感謝をしていたい」
「私もです」

 あふれるくらい、あなたに感謝しています。

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