シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~

~AKITO side ③~


「……まじか」

 風呂から出た明人が寝室へ行くと、波留は爆睡していた。
 そろそろと近づいて波留の肩をとんとん叩いてみた。

「う、ん……まだ、むり」

 波留は目を閉じたままぼそりと言った。

(何が? ねえ、何が?)

 明人の胸中は混乱している。

 この日のために、今までどれだけ理性を抑えてきたか。
 家具を買いに行った帰りの駐車場で波留にキスをしたときに、このままホテルにでも連れ込みたい衝動を必死に抑えて紳士を演じていたというのに。

 波留のとなりに腰を下ろした明人は頭をくしゃっとかきながら苦悶の表情になった。

「何、この拷問……」

 彼は心の声が洩れてしまった。

 寝息を立てる波留を横目でじいぃーっと見つめる。
 彼はとんでもないことを考えていた。

(目の前にこんな高級食材を置かれて手を出さない料理人を俺は知らない)

 明人はそっと手を伸ばす。

(しかも、まだ誰も触っていない極上の新鮮なやつだ)

 明人は波留の髪を指先で撫でる。
 そして、そのまま波留の頭をそっと上に向けると、その拍子に彼女は「あっ……」声を洩らした。

 少し困惑したような表情とわずかに開いた唇と、寝息ではなく吐息。
 明人は瞬く間に赤面して額からじわりと汗をかいた。

(妻に、殺される……!(キュン死))

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