シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 私が卒倒するくらい汚い部屋だったってこと?
 そんなの、明人さんからは想像できない。

「そ、そんなに、ですか?」
「ああ。ゴミの山と一緒に暮らしていた奴だ。君と結婚しなければ、俺はいつまでも腐った部屋にいただろう」

 明人さんは恥ずかしがることもなく、さらりとそう言った。
 それを聞いたら、なんだか少し心が軽くなってきた。

「明人さんはいつも綺麗なスーツ着ていい匂いがするのに」
「外面だけだよ。この部屋だって君が気づいたときに片付けてくれるからこの清潔感を保っていられるんだ。ありがたいと思ってるよ」
「そうですか。それを聞いたら、なんだか嬉しくなってきた」

 掃除だけは得意だから。
 私を励ますためにわざわざ自分の欠点を晒してくれるなんて、明人さんは本当に優しい人だなあ。 

「完璧な人間なんていないんだよ。得手不得手があって当然。いちいち気にして生きていたら疲れるよ」
「はい。少しずつ頑張ります」

 自然と笑顔が戻った私に、明人さんはそっと頭を撫でて髪にキスをしてくれた。そして彼は私が作った歪な形のおにぎりをぜんぶ食べてくれたのだった。

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