シェフな夫のおうちごはん～最強スパダリ旦那さまに捕まりました～

「その人はすごく急いでいたので名前を聞きそびれてしまって……ごめんなさい」

　言い訳ばかり口にして、明人さんは呆れているかな？
　なんて思ったら、彼は真顔から笑顔に変わり、口調も穏やかになった。

「君は何も悪くないから謝らなくていいよ」
「え、でも……」

　今めちゃくちゃ怖い顔していましたよ、明人さん。
　なんて言えない。

「そうか。それならこのハンカチ、俺が預かっていい？」
「え？　はい、でもどうして……」
「俺の知り合いかもしれないから。この特徴のある刺繍のハンカチを持っていた気がするんだよ」
「そうなんですね。たしかに、スーツを着てきっちりした女性でした。営業の人なのかなあ？」
「取引先の人だろう。うちの会社に来る日は不定期だから君が毎日持っていても会える確率は少ないだろうね」
「そうですね。もし明人さんのお知り合いの方なら会えるかもしれないですよね」
「そういうこと。じゃあ、俺が持っておくね」
「はい、お願いします」

　ああ、よかった。解決した。
　明人さんの知っている取引先の人なら私が知るわけがないよね。