シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
 せっかく美味しいはずのワッフルを堪能することができないまま、私たちは店をあとにした。

「久しぶりに来たけど美味しかったわ。付き合ってくれてありがとう」
「いいえ」
「あ、そうそう。あたしからいろいろ穂高さんの話を聞いたことは彼に内緒ね」
「どうしてですか?」
「だって、本人が言っていないことをあたしが暴露したなんて聞いたら嫌な気持ちになっちゃうでしょ?」
「そういうものですか?」
「そう。彼の口から教えてもらったほうがいいわよ。夫婦なんだから、それくらいの話はするでしょ」

 夫婦なんだから、という彼女のセリフがやけに胸の奥にぐさりと刺さった。
 逆に言えば、夫婦なのに私は知らなかったんだ。
 私の知らないことを、彼女は知っている。

 すごく胸が痛い。

「それじゃあ、あたしこっちだから」

 芦田さんはそう言って私の帰り道と反対方向を指差す。

「お疲れさま」
「お、お疲れさまでした」

 私はぺこりとお辞儀をすると立ち去っていく彼女の背中を見つめた。
 スーツ姿が似合うキャリアウーマンという感じの彼女を見ていたら、自分に自信がなくなって、私はしばらくその場で放心状態だった。

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