シェフな夫のおうちごはん~最強スパダリ旦那さまに捕まりました~
「波留、そんな思いつめなくていいよ。どうせそんなに顔を合わせる人じゃないでしょ。ていうか、たぶん会わないよね。取引先の人なら」
「うん……」

 でも、あんな偶然ってあるだろうか。トイレの前でぶつかった人が明人さんの知り合いで、社内の人じゃないのに偶然すぐに再会するなんて。
 こんなに人の多いオフィスビル内で……。

 私はガラス越しの向こうのロビーを行き交う社員たちの姿をぼんやり見つめた。

「心配ないよ。だって波留の話を聞いていたら穂高さんは波留のこと大好きだよ」
「無理していないかな?」
「うーん、無理して結婚するタイプとは思えないなあ。彼はどちらかというと無理だと思った相手にすごく塩対応すると思うけど」

 それを聞いて驚いてしまった。優菜までそんなことを言うなんて。

「浅井さんもそんなふうに明人さんの話をしていたんだけど」
「浅井さんって……ああ、後輩の彼ね」
「優菜もそう思うってことはやっぱり明人さんは冷たい人なの?」
「冷たいというか、あんまり他人に興味がないだけかも」
「え?」
「だから、余計に波留の話を聞いてて、彼すっごい波留のこと好きなんだなあって思ったのよ」
「そうかな」

 明人さんは変わらず優しいけど、いろいろな人の話を聞いて彼のことがわからなくなってきた。

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