《更新中》エリアーナの結婚 ~ 落ちこぼれ地味っ子令嬢は侯爵家令息の愛され妻?!私、お飾りのはずですが…?
 ——髪留め、結局返してもらえなかった。一つしか持っていない大切な眼鏡も。

 帰り支度が遅くなってしまったのを焦る気持ちのなかで、書庫室でのレオンとのやり取りがむくりと首をもたげてくる。

 —— 本当に、ちゃんと返してくれるのかしら。

 額にキスを落とされた時は驚きと嫌悪感しか湧かなかったけれど。
 ふざけているとしか、思えなかったけれど。
 そのあとに見せたレオンの()はどこか悲しそうで、心許なくて——

「ふざけて、たのよね……?」

 額にふれたあたたかさとその感覚はまだ鮮明で、レオンの眼差しと相まってエリアーナの心をほろ苦く揺さぶる。

「きゃ!?」

 大きな木の影から腕が伸びて、手首を取られた。
 強く引かれ、否応なしに立ち止まる。ふらりと身体が揺らいで目を(つむ)った。

 気付いた時には、茂みの奥の塀を背にして立たされていた——《《二本の腕》》に囲まれるようにして。

「……エリアーナ」

 背高く凛々しい体躯が大きな影となって見下ろしている。



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