《更新中》エリアーナの結婚 ~ 落ちこぼれ地味っ子令嬢は侯爵家令息の愛され妻?!私、お飾りのはずですが…?
束の間の幸せ
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週末のジークベルト侯爵家は、穏やかな空気を纏っていた。
初夏の太陽は柔らかな光を屋敷中に注ぎ、まだ冷たさの残る爽やかな風が、開け放たれた窓に掛かかったレースのカーテンを軽やかに揺らしている。
客間の大きな窓辺から見える新緑を眺めながら、エリアーナはふう、と微笑み混じりの息を吐いた。
仕上げたばかりのタッセルは、自分を褒めてあげたくなるくらい出来が良い。
手のひらに小鳥を乗せたような愛らしい丸みと重みをもたらすそれを、目の高さまでそっと持ち上げれば———銀糸を編み込んだ組紐が光を帯びてキラキラ揺れた。
今まで気付かなかったけれど、自分には裁縫の才能があるのではなかろうか……そんな根拠のない喜びは独りよがりだろうか。
身体を預けているエメラルドグリーンの長椅子は、若葉色の壁紙に合わせてエリアーナが選んだもの。座面に施された控え目な金糸の刺繍をすらりと撫でると、自然と笑みがこぼれた。
「エリー……」
二度の軽いノックのあと、背中に光をまとった美しい青年が客間に入ってくる。薄灰色の髪を銀糸のように煌めかせて。
どこにいたって、アレクシスはエリアーナの居場所をすぐにつきとめてしまう。誰かが教えたのか、それとも愛情が織りなす魔法——?