《更新中》エリアーナの結婚 ~ 落ちこぼれ地味っ子令嬢は侯爵家令息の愛され妻?!私、お飾りのはずですが…?
 これまでの成り行きから、エリアーナは置かれた立場を瞬時に理解した。

 ——そういう夫婦を《《演じろ》》ということですね。

 ぎろりと睨まれたので、おそるおそる手を伸ばす。アレクシスの腕は想像どおりに逞しく、我慢しようとしても自然と頬に熱が昇った。

 テロ組織のアジトの一つだと聞けば恐ろしいが、不思議と恐怖心が湧かないのは堂々と振る舞うアレクシスがそばにいるからだろう。
 民間人が出入りする商店だと言うのだから、普段はその正体を隠して王都の街に溶け込み、平静を装っているはずだ。

「……ここは何のお店なのですか?」
「入ればわかる」

 薄暗い廊下を進めば、入り口と同じような双扉が待ち構えていた。アレクシスがゆるりと押せば、ぎぎ、と鈍い音を立てながら片方の扉が開く。

 とたん、眩しいほどの光が内廊下にあふれ出た。薄暗い廊下の静けさが嘘のように、明るい店内は人々の微笑や感嘆の声で驚くほどに華やいでいる。

 近くにいた店員がふたりの姿を認め、ゆっくりと歩み寄った。店員たちの品のある身なりや上質で落ち着いた雰囲気は、この「店」の格式の高さを語るようだ。

「グリンデンべルクの衣装屋へようこそ。今日はどのようなものをお探しでしょうか?」

 媚びることもなく、厚化粧の店員は作り笑いとも取れる妖艶な笑顔を浮かべている。



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