憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 彼が私を愛しているのだと全身でアピールするために、航晴は耳元で囁き終えたあとに首筋へ噛みついた。

 いくら夫婦だからといえども、公衆の面前で堂々と噛み痕をつけるのは違う。
 お願いだから、落ち着いてほしい。

「こ、こういうのは……人目のつかないところでやって……!」
「……二人きりなら、いつでもいいのか」
「し、知らない……!」
「……ふ……っ。いいことを聞いた。機会があれば、ここに愛の証を刻みつけよう」
「……!」

 彼は妖艶な声で囁くと、首筋につけられた赤い花を指の腹でなぞる。

 ドキドキしたし、もっとしてほしいとねだってみたいと思った気持ちは嘘ではないけれど――突き刺さる視線が、浮ついている場合ではないと警告しているような気がした。

「絶対に許さなくてよ……!」

 地を這うような、甲高い女の声が聞こえたのは気のせいですませたい。

 航晴はお灸を据えたつもりでいるみたいだけれど、火に油を注いでいるのではないかしら……?

 私は戦々恐々としながら、オーベルジュの焼き立てパンを恐る恐る口にし――そのおいしさに舌鼓を打った。
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