憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 時折空港の滑走路を間借りして、自衛隊機が飛び立つこともあるから……私たちにとっては物珍しいものでもない。

 一体なんのために見学する必要があるのかと、始まるまでは真面目に見学する気も起きなかったのだけれど――。

 始まってみて、気づいた。

 自衛隊機が普通に飛んでるだけなら、なんの面白みもないけれど。
 人々を楽しませるために本来であれば不必要アクロバット飛行をする機体は、それなりに見応えがあるということを。

「おおー」

 四基のブルーインパルスがダイヤモンドの形を作り、離陸する。

 それはダイヤモンド・テイクオフと呼ばれる発進方法なのだと、どこからか説明の音声が聞こえてきた。

 戦闘機は恐ろしいスピードで空を舞い、華麗な飛行を繰り返す。
 機体が通り過ぎたあとには、晴れ渡る空の元に飛行機雲が残っているのが印象的だった。

 その光景に目を奪われていると、いつの間にか隣に立っていた航晴に話しかけられる。

 口は動いているようだけれど、戦闘機の飛行音にかき消されてしまい、何を言われているかよくわからなかった。
 私は慌てて彼の口元に耳を近づけ、叫ぶ。

「もう一回言って!」
「……ブルーインパルスの、パイロットになりたかったんだ」

 彼の声は、けして大きな声ではなかったけれど――今度ははっきりと聞こえた。

「あれの操縦士を目指すなら、まずは自衛隊の戦闘機を志す必要がある。希望を出しパイロットになれたとしても、永遠に乗り続けられるわけではないからな……」
「そうなの?」
「ああ。任期は三年だ。短時間だけでもなれてよかったと、夢を叶えて満足できればいいが……。簡単に割り切れるものではないだろう。必ず、欲が出る。あれに乗っている間は、よほどのことがない限りは戦場へ赴くこともなくなるからな。もう一度戦闘機の操縦桿を握り現場復帰など、考えられない」

 航晴は戦闘機や自衛隊機について、詳しい知識を持っているみたい。
 初心者の私に解説しているつもりのようだけれど……頭の中には、はてなマークが浮かんでは消えていく。

 旅客機のパイロットは、目的地まで乗客を送り届ける。
 安全な空の旅を実現するために操縦桿を握るけれど……。

 戦闘機のパイロットは敵の機体を見つけたら迎撃したり、この国を守るために活躍するのよね。

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