憧れの副操縦士は、許嫁でした～社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる～

　眩暈を起こしてしまいそうになった私は目頭を手で押さえ、その説明を軽く聞き流していた。

「説明は以上となります。ごゆるりと、お料理をお楽しみくださいませ」

　何がなんだかわからぬうちに説明を終えたシェフは、給仕スタッフと共に部屋をあとにしてしまう。
　私たちの間には、重苦しい空気が流れる。
　誰も一言も話さないが、こちらからも一から百まで説明してくれと促してもいいものかしら？

「大吾さん」
「ああ、峯藤さん。私と航晴が二人揃って待ち構えていたことを、驚かせてしまったようですまないね」
「あの。母とは一体、どのような関係なのでしょうか……」
「それを説明する前に、君に伝えなければならないことがある。聞いてくれるかい？」

　判断に迷っていると、お母さんがキャプテンの名前を呼んだ。
　問いかけられた私は、ゆっくりと頷く。
　このまま料理を放置していたら、せっかくのおいしい料理が冷めてしまうと考えながら。

「君は、私と陽子(ようこ)の娘だ。ＬＭＭ空港の、社長令嬢ということになる」

　彼が機長として働く一方でＬＭＭ航空の社長という肩書きを持っているのは、あの会社に勤める乗務員ならば誰もが知っている話ではあるのだけれど……。
　私は自分が社長令嬢だと告げられても、何を言われているかさっぱり理解できなかった。

「陽子と私の関係は、夫婦だよ」

　お母さんとキャプテンが、夫婦？
　私が二人の娘？
　情報量が多すぎて、頭の中にうまく入っていかない。
　そんな私へ隣に座る三木さんは、心配そうな視線をこちらに向けていた。

「私の、父親ってことですか」
「そうだよ」

　緊張しているからだろうか。
　自分でも、固く不機嫌そうな声が口から飛び出る。
　私は膝の上に乗せていた両手を握りしめると、テーブルの上に並べられた豪華な料理をじっと見つめた。

「……あの、食べてもいいですか」
「もちろん。私たちの前では、遠慮する必要はない。パイロットとＣＡではなく、父娘として接してくれるとありがたいかな」
「……いただきます」

　私がこの世に生を受けてから26年。
　父親が生きていて、こんな近くにいるなど思いもしなかった。
　本来であれば前菜から優雅に食べるのがマナーではあるのだけれど、育ちの悪い私はいきなり中央に置かれたメイン料理のステーキへナイフを入れる。