憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「ポジティブに考えてくれ。物騒な冗談を口にしたくなるほど、千晴を愛しているのだと」
「はいはい」
「反応があまりよくないな」
「私も、仕事に真面目な航晴が好きよ。だから、あなただけ呼ばれたとしても、しっかりと業務に遵守すること」
「……約束してくれ」
不機嫌そうに眉を顰めた彼は、こちらを真っすぐに見つめた。
その瞳は、不安そうに揺れている。
仰々しい態度に何事かと見つめ合えば、航晴は思ってみない言葉を口にした。
「俺と一緒に、フラワー……」
「花?」
何事かとオウム返しにした時。
タイミング悪く、自宅の電話が着信を告げる。
スタンバイの終了時刻まで、あと五分というなんともいえない時間に。
私の携帯には連絡がないので、航晴だけが呼ばれたのだろう。
「……急遽、フライトが入った」
「でしょうね」
「パイロットの急病らしい。千晴も……」
「呼ばれていないから、行かないわよ?」
「……残念だ……」
離れたくないとより一層強く抱きしめてくる彼に、早く空港に行けとせっつくのは骨が折れた。
「俺のことが嫌いなのか」
「好きだって言ったでしょ」
「離れても平気なのか」
「仕事なんだから、仕方ないじゃない」
「俺は割り切れない……」
「あのね。私だって、いつかはCAを辞めることになるのよ。あなただけ、出社する機会も増える」
「しかし、生涯CAを続けたいと……」
「……気が変わったの。最後まで、言わせないでよ。恥ずかしいんだから……」
あなたの子どもだったらほしい、なんて。
そんなの口にしたら、出社どころの話じゃなくなってしまうでしょう?
顔を真っ赤にして顔を背ければ、その答えを求めるようにこちらを覗き込んできた。
不安そうな彼の瞳が熱っぽい視線に変化する。
その瞳は、駄目だ。
このままだと航晴に、食べられてしまう――。
「お嬢様! スタンバイが無事に終わったので、午後からはオフですね! フラワーアレンジメント教室のお時間ですよー!」
「!?」
身の危険を感じながらも、彼の瞳から逃れられずに甘い口づけを交わそうとした時のことだった。
私と全く同じシフトで待機していた倉橋が、たくさんの花を抱えてリビングへやってきたのは。
あまりにも驚きすぎて、思わず航晴を突き飛ばしてしまった。
「ご、ごめんなさい! わざとじゃないのよ!?」
「ああ……」
ソファーに寝転がった彼は、私に叩かれた胸元を握りしめて瞳を細める。
その姿が、あまりにも妖艶で――。