憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 呼び出しがかかっていなければ、思い切って航晴の上に跨がっていたかもしれない。

「早く、出社準備をしなければならないでしょう!?」
「……続きは、帰ってからだな……」
「つ……!?」

 この後に起きるであろう出来事を想像した私は、顔を真っ赤にしながら驚愕した。

 誘うにしたって、言い方があるでしょう?
 それに、さっきと言っていることが違いすぎるわ……。

「私との約束は!?」
「気が変わった」
「真似しないでよ……!」

 焦る私へ不敵な笑みを浮かべると、立ち上がった航晴は笑顔の倉橋に告げた。

「千晴を頼む」
「はい! 任されましたー!」

 元気いっぱいな彼女の声が、リビングに響き渡る。
 その声を聞いて少しだけ冷静になった私は、こちらを振り返った航晴と視線を合わせた。

「夜が楽しみだな?」

 先程までの憂鬱そうな態度はどこへやら。
 ご機嫌な様子で、彼はベリーズ空港へ向かう。

「お嬢様、残念でしたね?」
「何が!?」
「呼び出しがかからなければ、あのまま……」
「真っ昼間から、何を言っているのよ!? そんなわけないでしょう!」
「ええー? 夫婦なんですから、恥ずかしがらなくたっていいじゃないですかー」
「あなたはもっと、恥じらいを持ちなさい!」

 そんなんだから男に振られるのよと言いかけた私は、慌てて口を閉じた。

 倉橋と険悪な雰囲気になって、どうするのよ。まったく……。
 冷静にならなければと心を落ち着けている間に、彼女はテーブルの上に大量の花を並べてテキパキと準備をする。

「なんの準備?」
「副操縦士から頼まれたんですよ~。自宅でもお嬢様に、ラグジュアリーな体験をしてほしいって!」
「これのどこが、キラキラした体験なのよ……」
「キラピカですよ? さぁ、お嬢様! 女子会の始まりです~!」

 ハイテンションな倉橋は、テーブルの上に並べられた大小様々な花を自由に使い、アレンジするように指示してきた。

 好きにしていいとは言われたけれど……この家にふさわしい花を選んでまとめ上げるのは、簡単なことではないわよね。

 ――まぁ、でも。
 深く考えても仕方ないから、適当にやりましょう。

「フラワーアレンジメント初心者のお嬢様に、あたしがコツをアドバイスして差し上げます!」

 まずは土台となる花を五本選び、一番大きな花を真ん中に配置。

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