憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「人間は悩み苦しんで、答えを探すものですよ」
「……でも……」
「ただ前だけを見つめ、一度も寄り道することなく正解の道に辿り着く人も居ますけど……お嬢様は曲がりくねった道で、本当にこの道で合っているのかと立ち止まっているようなイメージです」
「……そうね」

 倉橋の印象は、間違っていないだろう。

 正解の道がわからなくなり、曲がりくねった道の途中でしゃがみ込んでいる。
 誰でもいいから助けてほしい。
 そう願ったときに都合よく航晴が手を差し伸べてくれたから、共に歩もうと決めた。

「ねぇ、倉橋。航晴のために私ができることって……。何かないかしら?」
「簡単なことですよ!」

 倉橋が笑顔で告げた言葉を耳にした私は、フラワーアレンジメントを完成させた。

 メインに赤薔薇を選んだのは、その花言葉に「あなたを愛しています」という意味が込められていたからだ。
 黄色い薔薇をメインに作成され、白いリボンで纏め上げられた倉橋の作品と比べたら足元にも及ばないできで……。

 これを玄関先に飾るのかと、私は少しだけ気分が落ち込んだ。

「少し、派手かしら」
「そんなことないと思いますよー? お嬢様の気持ち、伝わるといいですね!」

 彼女はど真ん中に配置しようと提案してきたけれど、素人の作品を目立つ場所に置き、高級感あふれる雰囲気をぶち壊すわけにはいかない。

 話し合いの末、エントランスの隅へ左右に分けて、作成した花たちを置く。

 疲れて帰ってきた航晴がその花たちを見つめ、どちらが私の作ったものなのかと話題にすることはないだろうと予想していたけれど……。

 倉橋は絶対の自信があるようで、彼が帰って来るのを心待ちにしていた。

 私よりも、楽しみにしていてどうするのよ……。

 早く帰ってこないかしら。

 二人でのんびりと肩を並べ、旦那様の帰りを待っていたけれど。
 帰宅の予定時刻になっても、彼は帰って来なかった。

「お嬢様。体調を崩すと、業務に支障が……」
「もう少しだけ、待ってみるわ」
「せめてお部屋に!」
「ベッドに横たわったら、寝てしまいそうなの。約束は、守らなければ……」
「お嬢様……」

 倉橋をこれ以上付き合わせるわけにはいかないと感じ、先に休むように伝えた。

 一緒にいると暫く粘っていたけれど、航晴が帰ってくれば自分は邪魔でしかないことに気づいたのでしょうね。

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