憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 生真面目さが売りの航晴が隠すことなく見せびらかしていると、なんだかイケナイものを見てしまったようで血の気が引いた。

「ああ。俺の愛する妻が、つけてくれた痕だからな。今日は思う存分見せびらかすと決めている」

 うっ血根を山程首筋につけた副操縦士が空港内を歩いてたら、乗客に風紀が乱れていると思われてクレームになるんじゃないかしら……?

 蚊に刺されたと、言い訳できる程度にしておけばよかったわ……。

「スカーフで隠して」
「……これは、千晴のか? 名前が入っているものだろう」
「予備だから、名前は刺繍されていないわ」
「副操縦士がCAのスカーフを首に巻いていたら、関係を疑われるぞ。俺は千晴が好きだと、公言していたからな」
「どっちにしたって、犯人探しが始まるのは間違いないでしょう!」
「俺は千晴を守りたい。だから、これはしまってくれ」
「だからって……!」

 そうこうしているうちに、ベリーズ空港に車が到着してしまった。

 もう。一度言い出したら聞かない旦那様は、これだから困るわ。
 私はやらかしたことを後悔しながら、先に車から降りた。
 それからのことは、思い出したくもない。

「おはようございます」

 制服に着替えた航晴がオフィスに姿を見せれば、乗務員たちが首筋に注目してざわついた。

 あの三木副操縦士が、首筋に山程うっ血をつけているなんてと驚愕している。
 隣の席に座り、小突いてくる倉橋には殺意が芽生えた。
 彼女はすべて知っているからだ。
 絶対に余計なことは口にするなと睨みつければ、空気の読めない男が彼に絡む。

「おいおい、どした? その首筋! お前、峯藤一筋じゃなかったのかよー!」
「ああ、これですか。妻につけてもらいました」
「妻? そういやすげーゴツい指輪、つけ始めてたよな……」
「ええ。結婚したので」
「はぁ!?」

 航晴は私と結婚式を挙げてから薬指に指輪をつけていたので、CAの間では結婚したか彼女ができたのではと噂になっていた。
 直接彼の口から語られるのは、今回が初めてだ。
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