憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 ヒレステーキのロッシーニ風、だっけ。

 つけ合わせのじゃがいもを一番下に乗せて3cm程度にカットされた、ちょうどいい焼き加減のヒレ肉が置かれている。
 フォアグラとトリュフらしきものが上に乗っているあたりが、おしゃれというか高級料理感を醸し出していた。
 肉を一口大に切り分けた私は、お皿の縁に彩られたソースをつけて口の中へ運ぶ。
 こんな大事な話をしている時でなければ、おいしいと笑顔でお母さんに告げ、連れてきてくれてありがとうと大喜びしていただろうに。
 今は怒りの感情が強いせいで、口の中へ咀嚼する度に広がる油っこさしか感じない。

「キャプテンは、いつから私が娘だとお気づきになったのですか」

 口元を近くに置いてあった紙ナプキンで拭うと、私は硬い声で彼に問いかける。
 父親など、絶対に呼びたくなかった。

 私とお母さんから逃げたくせに。

 養育費すらも払わなかった男に今更父親ヅラされたって、受け入れられるはずがないだろう。
 どうせ名乗り出てくるなら、物心ついた頃に手を上げてほしかった――なんて。
 キャプテンとお母さんの都合を考えることなく、私は心の中で鬱々とした思いを抱えていた。

「最終面接のときかな。君の名字と、顔たちで知った」
「私が娘だと知っていて、内定を出したんですか」
「そうだよ。ただ、君の評価は専門学校時代からトップの成績だったからね。他社に取られるくらいなら、うちで働いてほしかったんだ」
「そんなに前から……」

 就職が決まった日に父親だと名乗り出たら、環境の変化について行けずストレスになるだろうと言い訳してくる。
 今まで黙っていた理由が、酷いにも程があるのではないだろうか。

 私はさっさと打ち明けてほしかった。

 娘を思いやる父親のようなふりをしているけれど。
 打ち明ける覚悟ができていなかっただけじゃない。

 今更こんな大事なことを言われたって、私にはどうしようもないわ。
 両親はこの事実を伝えて、どうして欲しいのかしら。

「このタイミングで私に告げた理由を教えてください」
「……恥ずかしい話だけど……」
「大吾さん」

 お母さんは心配そうにキャプテンを見つめ、二人は肩を寄せ合い目を瞑る。
 どうやら言い出しづらい何かがあったから、私の父親だと名乗り出ることにしたようだ。

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