憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 二人とも、とても嬉しそうだわ。

「そろそろ、頃合いじゃないか?」
「ええ、そうね。外も暗くなってきたし……イルミネーションを見学するには、ちょうどいい時間だわ」
「それじゃあ、行こうか。私たちは空の旅を」
「ええ。プライベートジェットなんて久しぶり。楽しみね……」
「なっ!?」

 お母さんの口から、とんでもない単語が出てきた。

 イルミネーションを見るために、わざわざ飛行機を飛ばすなんて……。

 流石はお金持ちね。
 スケールが違うわ。

「千晴はこっちだ」

 両親の去りゆく姿に気を取られていれば、繋いでいた手を航晴に引っ張られる。

「ご両親と一緒に、空の旅を楽しむのも悪くはなかったんだが……。派手な行動は、尻込みしてしまうタイプだろう」
「そ、そうね。空からイルミネーションを見るなんて……考えたことがないわ……」
「高いところは、問題なさそうだったな」
「え、ええ。高所恐怖症だったら、CAとしてやっていくのは大変でしょうね」
「地上は一般客でごった返しているだろうからな。車の中から見られる範囲だけ目を通し、とっておきの場所で見物しよう」

 派手で豪快な場所ではない、高いところで思いつくのは……花火を見に行ったベリーズホテルかしら?

 あそこは凄かったわね。
 人混みでもみくちゃにされる必要もなかったし、お肉もおいしかった。

 ただ、不審者のような格好で館内を歩いていたから、スタッフに顔と名前を覚えられていると気まずいわ……。

「外は寒いからな。暖かい格好をしないと、風邪を引いてしまうぞ」
「防寒対策はバッチリよ!」

 手袋にマフラー、耳当て。

 身体を暖める特殊な下着と靴下に、全身をすっぽりと覆い隠すロングコートを身に着けた私は、準備ができたと笑顔を浮かべる。
 隣に並び立つ航晴は、有名ブランドのダウンと首元にマフラーを身に着けて準備を終えていた。

 普段とあまり変化が見られないけれど……寒くないのかしら……?

「完全防備だな……。抱き心地が、いつもと違う……」
「かなり着込んでいるから、重いわよ。今日は、抱き上げるのは禁止」
「……千晴……」
「物欲しそうな目をしても、脱がないわよ。さぁ、行きましょう」

 着込むのは辞めてほしいと視線で訴えかけてくる航晴のことは無視して、私たちは天倉の家を後にした。
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