憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「ねぇ。そんなに嫌なの?」

 リムジンに乗り込み、夫婦で夜の街に繰り出したのだけれど……。
 着膨れしているのが不満らしく、両腕を胸元に組んでムスッとしている。

 いかにも不満そうですという気持ちを隠しきれていない。
 これほど不機嫌な航晴の姿を見ることなどなかったから、一周回って面白くなってきたわ。

「千晴とは、いつだって肌を重ね合わせたい……」
「……触れるのを拒絶しているわけじゃないのよ。分厚い布越しでもよかったら、どうぞ」
「……よくないから、虫の居所が悪いんだ」
「仕方ないでしょう。体調を崩したら、皆に迷惑がかかるのよ」
「なんのために、スタンバイがあると思っている」
「ねぇ、航晴。運転手さんに頼んで、引き返して貰いましょうか」
「どうしてそうなる」
「そこまでして、イルミネーションを見に行く必要があるとは思えないわ」

 航晴には、二つの選択肢がある。

 このまま引き返し、自宅で思う存分愛し合うか。
 美しく飾りつけられたベリが丘の風景を眺めながら、寒い冬も吹き飛ばすくらいロマンティックな光景に酔い痴れるか。
 私だったら、後者を選ぶけれど……。

 彼はどちらを選択するのかしら?

「……わかった。このまま目的地に向かおう」
「家に戻らなくていいのね?」
「ああ。千晴と愛し合うのは、いつでもできる。だが、今年のクリスマスイブは今日だけだ。千晴には……いつもと異なるベリが丘の光景を、見せてやりたい」
「そう。期待しているわ」

 航晴の覚悟が決まって程なくすると、リムジンはBCストリートで停車した。

 街路樹には、ピカピカと七色に光る電飾が張り巡らされている。
 窓を少し開ければ、駅からかしら。
 控えめな音量で、クリスマスソングがかかっていた。

「綺麗ね……」

 イルミネーションなど見たって、何が楽しいのか。
 恋人のいない私には、さっぱり理解できなかったけれど……。

 旦那様が一緒にいると、気分が盛り上がるような気がするから不思議だわ……。

「ああ。千晴と一緒だと、美しさもひとしおだ」
「季節ごとの行事なんて、私には関係ないと思っていたのにね。航晴と出会ってから、毎日が楽しくて仕方ないわ」
「……本当か」
「ええ。この世界が素晴らしいと思えるようになったのは、あなたのお陰よ。ありがとう」
「俺は何もしていない」

 航晴は謙遜するけれど。

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