憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
「本来は、手すりに捕まるようにとアナウンスがあるんだが……イルミネーション期間中は、ここに何度か来たことのあるリピート客しかこないからな。そうした音声は、流れないようだ」
「……だから、手すりがあるのね」
「ああ。ちなみに、このエレベーターはボタンを押すことで透明になる」
「……透明?」
「そうだ。押してみるか」
「え、ええ……」

 引き気味に同意すれば、彼は再びICチップの搭載されたカードを取り出すと丸いボタンを押した。

 カチリと音が鳴り、壁だと思っていた場所が瞬時に透明な箱に切り替わる。

「すごいわ……!」

 ものすごいスピードで浮上するエレベーターの中からは、美しい夜景を見られた。
 角度的に左側のサウスパークは視覚になってしまって見られないけれど……。

 ホテルベリーズや、港に停泊する豪華な船はピカピカと光るのを目にした私は、彼の抱きしめられたまま、瞳を輝かせて子どものようにはしゃいだ。

「すごいわ! 港に停泊している船も、キラキラ光るのね!」
「ああ。綺麗だな」
「とても美しい光景だわ……!」

 BCストリートの風景を見ただけでも充分にクリスマス気分が味わえたけれど、エレベーターの中から見る光景は比べ物にならないくらい美しい光景だった。

 うっとりとその光景に酔い痴れていると、彼は再びボタンを押す。
 夜景を見られなくした航晴に、私は思わず不満を隠しきれない声音で告げる。

「どうして、意地悪するのよ……?」
「展望台に到着してから思う存分、好きなだけ鑑賞すればいい」
「そんなこと言われたら、一生居座るわよ?」
「朝になれば、ライトアップは終わってしまうぞ」
「なんの面白みもなくなってしまう前に帰りましょう」
「ああ。それがいい」

 軽口を叩き合えば、エレベーターは目的地への到着を告げた。

 私たちは開いたドアから二人揃って降りると、フロア555へ足を踏み入れる。
 円形の展望台は、ぐるりと180度好きな角度からベリが丘の美しい光景を見渡せるようになっていた。

「ねぇ、航晴。イルミネーションは……」
「こっちだ」

 降り立ってすぐに右側ばかりを目にしていた私は気づいていなかったけれど、左側には人が集中しているエリアがある。

 芋洗いで身動きが取れないほどに人がいるわけではないけれど……。
< 126 / 139 >

この作品をシェア

pagetop