憧れの副操縦士は、許嫁でした～社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる～

「ねぇ。本来迎えに来る予定だった人は……無事なの……？」
「心配いらないですよー！　洗車中に鍵をつけたまま席を外したら、あの不届き者に車を盗まれてしまったそうです」
「そう……よかったわ……」
「何も良くない」

　思っていた以上に事情聴取へ時間を取られてしまったからか、航晴は不満そうな声を上げた。
　犯人が捕まったから、問題が解決したわけではないのだ。

　頃合いを見て天倉の娘であることを公表するつもりだったのに、思わぬところから噂が回ってしまう状況を作り出してしまったことに苛立っている。

　　自宅に戻るまで怒りを沈めないと、問題を起こした運転手を首にしそうな勢いだ。

「みんな怪我一つなく無事だったんだから……そんなに怒らなくたっていいじゃない……」
「あのまま俺たちが偶然通りかからなければ、千晴はもっと恐ろしい目に合っていたんだぞ」
「そうかもしれないけど……」
「それに、思わぬ形で千晴がＬＭＭの血縁者だと暴露されてしまった。身代金どうのこうのと騒ぎ立てられたのも悪手だ。今まで以上に警戒する必要がある」
「……そうね。ほとぼりが冷めるまで、有給を使って大人しくしているわ」
「だが、千晴を一人にしたら……。俺の知らぬところで危険な目に合うのではないかと心配で仕方がない」
「ノースエリアから一歩も外へ出ないわ。そしたらあなたも安心できるでしょ」
「いや。それだけでは足りない。自由を奪うようで申し訳ないが、常にひと目のあるところで大人しくして欲しい……」

　天倉か三木の家で、黙って帰りを待っていろってことね。