憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
前者なら暇を持て余しているお母さんがいるし、話し相手が誰一人いないわけじゃない。
どちらの家にいても使用人のみんなは優しくしてくれるし……。
長期休暇だと思えばいいわね。
「……旦那様の頼みですもの。妻として、黙って従う以外の選択肢は存在しないわ」
「すまない……」
「……浮気したら、承知しないから」
「まさか! 俺は千晴一筋だ。仕事を休んでいる間も、君のことだけを考えて業務に遵守しよう」
「前方不注意で、事故を起こさないように。あなたの運転は、乗員乗客の命がかかっているんだからね」
「ああ……」
本当に理解しているのか怪しい生気の感じられない返事を受け、彼の頬に手を伸ばす。
相変わらず、感情の読み取れない瞳をしている。
いつだって真面目な顔で様々な思いを巡らせる彼は、私の最善を一番に考えてくれる。
大好きで、大切な旦那様だ。
この人となら、ずっと一緒にいたいと思う。
この人の子どもなら、一人で育てられそうな気がする。
そんな思いを込めながら潤んだ瞳を向けて頬に指先を触れると、少しだけ不満そうな声が聞こえてきた。
「……どうした」
「……助けに来てくれて、ありがとう」
お礼を伝えていなかったことに気づいて口にすれば、彼は嬉しそうに瞳を細めて頭を撫でてくれる。
私は航晴から、とても大事にされているような……気がするのは、きっと気のせいではないわね。
普段なかなか言えない思いを曝け出すいい機会なのではと考えた私は、思い切って小声で語りかけることにした。
「私の、愛しい旦那様」
「……っ」
「何かあったら、私を助けると約束して」
「もちろんだ……!」
「ぐえっ……!」
甘い空気が吹き飛ぶほどに強く抱きしめられ、魂が口から飛び出てしまうかと思った。
倉橋はよく通る高い声でお嬢様って叫ぶし、阿部機長は呆れてる。
そうして私の誘拐未遂事件は、一旦の収束を見せ――。