憧れの副操縦士は、許嫁でした~社長の隠し子CAは、パイロットにすべてを捧げられる~
 毎月半分は外出しており、自宅でゆっくりと休暇取る時間のほうが珍しいくらいだ。
 二人が結婚して家庭を築いていたとしても、父親として娘に接する機会はそれほど多くはなかったかもしれない。

 それでも。

 小さな子どもたちにとって、父親と母親が二人揃って子どもを育てるのは当たり前のことだ。
 留守がちだけどいる、存在すらしないというのでは、大きく意味合いが異なるだろう。
 二人が結婚しなかったせいで、幼少期に体験するはずの楽しい思い出は一生奪われてしまった。

 それを恨むなと言うほうがおかしいのではないか?

 どれほど謝罪をされても。
 過去の悲しい思い出はいつまでも、心の傷として刻み込まれているのだから……。

「今後どうするかは、これから決めよう。ひとまず私は、離れていた分だけ家族を……」
「何を言っているのですか。26年ですよ」
「千晴」

 お母さんが言葉を選びなさいと指摘してくるけれど、一度口から出た言葉は止められない。
 手に持っていたナイフとフォークを皿の上に置くと、私はキャプテンを睨みつけた。

「私はお母さんと二人で暮らしてきました。小さな子どもではありません。26歳の、大人です。今更突然名乗り出てきた父親と家族として暮らすなど、考えられません」
「千晴。お父さんにも、事情があったの。そんな強い口調で拒絶しなくても……」
「お母さんは、その人のことが好きなら一緒に暮らせばいいよ。私は一人暮らしする」
「何を言っているの? 一人暮らしなんて、許可できないわ」
「未成年じゃないんだから。お母さんの許可なんていらないでしょ!」

 お母さんはキャプテンの味方であるらしい。
 母娘喧嘩を始めた私たちを、気の弱そうな優しい瞳があっちへこっちへ揺れ動いている。
 隣に座る三木副操縦士は黙々と食事を片づけていたけれど、メイン料理を食べ終わった瞬間にナイフとフォークを手から離す。
 口元を紙ナプキンで拭うと、低い声で私たちの会話に割って入った。

「キャプテン。そろそろ頃合いかと」
「ああ。そうだな……」

 一体何が頃合いなのよ。

 胸の前で腕を組んで副操縦士を睨みつければ、その視線に答えるように小さく会釈をしてきた。
 私は意味が理解できず、視線を逸らす。

 コックピット組の考えていることが、全く理解できない。
 これはCAとして、由々しき事態だ。
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